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「お前な、ふざけるのも大概に」
言いかけた声を、「本気だよ」と遮られた。
「本気で、そう思ってる」
健人は、こつんと軽く裕二の額に額をぶつけてきた。
「裕二さんからしたら頼りないガキかもしれないけど、俺だって何も考えてないわけじゃないよ。考えた上で、本当にそう思ったんだ。少しは俺のこと信じてよ」
吐息のかかる距離で、視線が重なる。
少しは信じて、という健人の言葉に、頭を殴られたような衝撃がはしった。それは言い換えれば、『お前は少しも俺のことを信じていないだろう』という意味だ。
健人はまだ若いから。なにも知らないだろうから。だから年上である自分が導いてやらなければいけないと、いつの間にか傲慢になっていた自意識を見透かされた気がした。
「裕二さんが俺のことを心配してくれてるのは知ってる。でもさ、究極的な話だけど、人っていつ死ぬか分からないじゃない。裕二さんは先のこと心配するけど、俺が明日無事に生きてる保証もない。今さえ良ければいいとは思わないけど、でも俺は、今幸せだと思うことも諦めたくない」
健人の言葉が、胸に落ちてくる。
「……幸せ?」
言われた言葉を繰り返すように問うと、「冷静に聞き返されると照れるね」と健人ははにかんだような笑みを浮かべた。
「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、俺、裕二さんと付き合ってずっと幸せだったよ。そりゃ、良いことも悪いことも色々あったけどさ。休みの日に二人で昼まで寝坊したり、一緒にご飯食べたり、そういうなんでもないことで、すごく満たされるんだよ。たぶん俺、裕二さんと一緒にいられるなら、なんでもいいんだと思う」
だからね、と健人は言葉を続ける。
「もし裕二さんも俺と同じ気持ちでいてくれてるなら、俺のそばにいてほしい。週末だけじゃなくて、ずっと」
具体的には一緒に住みたいってことなんだけど、と健人は照れくさそうに頬をかいた。
「だから一度親にも挨拶って思……って、裕二さん?」
裕二はとっさに、健人の首筋に顔を埋めた。
今は絶対に、死んでも顔を見られたくない。健人に引かれてしまいそうなほど、情けない顔をしている自信がある。
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