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6
どうかしたのと問われて、返事の代わりに健人のシャツを強く握りしめた。
「お前って昔から、ほんっとに物好きだよな……」
切れ切れに、絞り出した声が震える。
頭のてっぺんから足の先まで、砂糖水にでも漬けられているみたいだ。もう若くない自分には健人の言葉は甘すぎて、まるで胸が焼けついたみたいに苦しくなる。
一丁前にプロポーズみたいなこと言ってんじゃねぇよと心の中で悪態をついてみても、異常なほどに速い心音は少しも収まってくれない。
熱を逃すように息を吐きながら、あぁ、まいったなと、裕二はゆっくり目を閉じた。
今までずっと、諦めるよりも先に無理だと切り捨ててきたもの。
見て見ぬ振りをして、耳を塞いで、そうやって四十年以上積み重ねてきたもの。その根幹が、今になって揺らいでいる。
ーー俺、裕二さんと一緒にいられるなら、なんでもいいんだと思う。
そう言われただけで、何もかも許されたような気がするのは何故だろう。
「健人」
名前を呼ぶだけで、胸の奥が締めつけられる感覚。健人に会うまで、もう何年も忘れていた。
導く立場だと偉そうなことを言いながら、気がつけば教えられてばかりだったと今更自覚させられる。
「俺も、お前に言いたいことがある」
健人の耳元で、一言だけ短い言葉をささやく。
「ちょっ、よく聞こえなかった、もう一回」と健人が騒ぐので、「お前の親に挨拶が済んでからな」と裕二は早口で返した。
「えっ、待って裕二さん、それって」
途端に狼狽える声がたまらなく愛おしくて、背中に腕を回してきつく抱きしめた。
ーー俺も、たぶんずっと幸せだったよ。
fin.
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