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街道を行ってしばらくすると、これまた大きな街が見えてきた。
街の大きさに見合うように随分と行き交う人も多い。これでは馬に乗っていてもあまり意味はないだろうと、降りて歩くことになった。
勝手知ったる様子で大通りをすいすい進んでいくトスイの後ろに続きながら、アニタは街を観察する。
街の建物は全体的にどれも高く、赤、青、黄色に緑など壁の色が原色に近く派手なものが多い。すれ違う人々の服装は王都ではあまり見ないものだし、出店には変わった異国のものも多く並んでいた。どうやら海も近いようだし、船での貿易が盛んな街なのだろうか?
何にせよ、王都では中々目にできない光景なのは間違いなかった。物珍しげに周囲を眺めた後、アニタは前を歩く男の背中に声をかけた。
「あの、トスイさん」
「んー?」
「今日はこの街で泊まるんですか」
「そうだよ、陽も傾いてきたしね。そのためには宿の確保だ。まともなのがまだ残ってるといいね」
「?」
まともなのとは一体どういう意味だ。その口ぶりから、まともじゃない宿もあるということは何となく分かるが。
アニタが疑問に思ったのを察したのか、トスイは言葉を付け加えた。
「さっきから随分と人が多いでしょ? 多分これ皆、街の外から来た人達だよ。港にデカい船が泊まってるのもチラッと見えたし、外国からも結構来てるんじゃないかな」
「今日お祭りか何かあるんですか?」
「さぁね、それは知らないけど。この街の外から来た人たち、皆どこに泊まると思う?」
「そりゃ、宿に泊まるんじゃないですか」
「そー。で、どうせなら劣悪でぼったくり紛いな宿よりキチンとした手頃な価格の宿に泊まりたいと皆考える。でも、宿も部屋が無限にあるわけじゃない」
「つまり、これだけ人が多いと、まともな宿はどこも満室かもしれないってことですか」
「そういうこと。まあ予定ではもう少し早く着くはずだったんだけど、今更言ってもしょうがないね」
「…………」
街に着くのが予定より遅れてしまったのは、間違いなくアニタの存在のせいだろう。アニタ達は馬を2人乗りしてここまでやって来た。2人乗りは1人だけの時より重さがある分、もちろん馬の足の進みも遅くなってしまう。もし当初の予定通り彼1人だけだったなら十分に余裕のある時間にこの街に到着して、良い宿もたやすく確保できたはずだ。
しかし、だからといって「自分のせいで街に着くのが遅れてすまない」とアニタが謝るのも何だか違う気がする。結局どうするのが正解か分からなくて、アニタは黙っていることしかできなかった。
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