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第九話
茂みってすごい。
いきなり上から降ってきた人間2人に全体重をかけられたのに、文句も言わず落下の衝撃を受けとめてくれた。お陰であれだけの大立ち回りをしたにもかかわらず、アニタは無傷だ。
この茂みは命の恩人だ。もう足を向けて寝れない。たった今下敷きにして寝ているが。
「茂み、ありがとう……!」
「何で茂みに感謝してんの」
茂みへの感謝をアニタが噛み締めているところで、真下から声がかかる。声の主が真下にいるのは、茂みと同じく彼のこともアニタがたった今下敷きにして寝ているからだ。
いつまでもこの状態では申し訳ないので、ごろんと横に転がって移動する。ちょうど茂みの上で2人川の字に寝ている状態だ。優しい茂みのことだ、もう少しだけなら寝ることを許してくれるだろう。
「……私、生きてるんですよね」
「俺には生きてるように見えるけど」
「トスイさんも生きてますか?」
「はァ? 死んでたら君は今誰と話してんの?」
「そうですよね。死んでたら話せないですもんね」
「……そうだよ」
トスイの声が夜の黒と火の赤が混ざった空に溶けていく。
それを合図に、よいしょっとアニタは起き上がる。それに倣うように、ひょいっとトスイも起き上がる。
ついでに乱れた己の長い髪に手櫛で触れると、ひとつふたつと引っかかった茂みの葉が落ちてゆく。
「怪我は?」
「無いです。トスイさんは?」
「無い。歩ける?」
「歩けます」
あまりにも淡々と当たり前のように尋ねるので普通に答えてしまったが、もしかしてアニタは今はじめてこの男に気遣われているのではないか?と謎の発見をしてしまった。……何だか変な感じだ。身体がフワフワする。
いや、フワフワというよりフラフラする。それに何だか視界も狭い。目もチカチカするし、気の所為かトスイが2人に居るように見える。
(トスイさんが2人もいたら面倒くさそうだな……)
そんな失礼なことを思いながら、アニタの視界は閉じた。
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