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まったく彼のことはよくわかるのに、自分のことはよくわからないのが不思議であり、それがただ事実としていま私を悩ませている。
だから、私は今一度彼について考えてみることにした。
彼は私にとってなんだろう。
その答えが、私を知るヒントになるかもしれない。だから、改めて今までを振り返ってみる。
彼はいつも私といて、私の知らないことを何でも教えてくれる。逆に私も、自分が知っていることなら、彼に何でも教えてあげている。
知らないことを知るというのは、欲とは異なったものなのだろう。必要とされるため、もしくは身を守る術というニュアンスが強い気がする。わたし自身もそうであったように。
ちなみに、もう少し自発的に踏み込んで彼に聞いてみたいことがたくさんあるものの、そこは弁えている。おかしいやつ、気持ち悪いやつなどと思われたくなかったから。
ところで彼は、どうやらあまり自己評価を高くは持っていないらしく、わりとため息を吐くことが多かった。悩ましく虚げな顔で。
それは私にだけ見せる顔であり、人前では決して見せない姿であることを私は知っている。
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