Start Your Engines

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 仁志と出会い、ユウヤは自分の将来を決めた。見知らぬ少年である自分を助けてくれた、父のような男。彼の下で白バイに乗りたい。  そのためにも家に帰ったら、母と正面から向き合おう。 「ただいま」   無事に北海道から帰ってきたユウヤの頬を張り飛ばし、舞子はぎゅっと抱きしめた。 「おかえり」 「母さん。俺、警察官になる。二度と母さんを泣かせない、大人の男になるから」  この子はもう自分の庇護下にはいないことを理解した。大人の男になるために走り出したのだ。寂しくはなるが、ユウヤが迷わず夢を追えるよう笑顔で送り出さなければ。   ”俺、仁志さんみたいな警察官になる。交通機動隊に行って、仁志さんと白バイに乗りたい”  八月の山中で出会った少年が、仁志の心にくすぶっていた残火に息を吹き込んだ。  何度もためらった末に提出した異動願い。警察組織では自分の希望は通らないことの方が多いが、三月の定期人事異動であっさりと認められた。  五年ぶりに袖を通した、交通機動隊の青い制服。錆びついていた自分自身に喝を入れるよう、仁志は心のエンジンに点火した。    警察学校への入校を控え、ユウヤは久しぶりにRZ350を引っ張り出した。一人前の警察官になるまで、RZともしばらくはお別れだ。  イグニッションをオンにして、キックペダルを蹴り込む。  一発で掛かったエンジンの咆哮が、走り出すユウヤの背中を押した。        
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