ユウヤ

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ユウヤ

 参ったな……。息継ぎを起こしてエンストしたまま、うんともすんとも言わない愛車を前に、ユウヤは途方に暮れていた。  諦め半分、期待半分で再度キーを捻り、キックペダルを思い切り踏み込む。一回、二回、三回……。ユウヤよりはるかに年上の、一九八二年式ヤマハRZ三五〇は歳相応の頑固さを見せ、数十回のキックにも断固として再始動を拒否している。  ガソリンは入れたばかりだし、点火プラグを外してキックをすると火は飛んでいた。キックペダルの踏みごたえも異常は無い。エンジンが回る三要素のうち、圧縮と点火に問題無いとすると、怪しいのは混合気だが、車載工具しか無い出先でキャブをばらすのは無理だった。  いつの間にか辺りは暗くなり、遠くの山に稲妻が光った。風向きが変わると一気に気温が下がり、ぽつぽつと大粒の雨が落ちてくる。夕立だ。 「マジかよ!」  脱ぎ捨てたままのヘルメットやプロテクターを急いでまとめ、三十メートル程先に見える屋根付きのバス停までバイクを押した。  国道四号を外れた田舎道は人通りが少なく、お盆休み前ということもあって、抜け道として使うトラックや帰省客と思われる他県ナンバーの車両も少ない。  停留所の時刻表を見ると最終バスの時刻は既に過ぎており、翌朝六時三十分の始発までバスは来ないようだ。三方を壁に囲まれ、木製のベンチが設置されたバス停の屋根下にRZを止めたユウヤは、雨宿りを兼ねて野宿をすることにした。  明日の朝になってもエンジンが掛からなければ陸送業者を手配するしか無いだろうが、母親を振り切るように家を飛び出した手前、僅か一日で尻尾を巻いて帰るのは気まずさ満点だった。何より、ここで中途半端にを諦めたら、自分は面倒から一生逃げ続けるような気がした。
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