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猫に珈琲の味は分からない
十二月、世間がクリスマスや少し気の早い正月に浮足立つ中で祥子は小さくため息を吐きながら街を歩いていた。
冬が深まるにつれて街はどんどん煌びやかに彩られていく、宝石を散りばめたようなイルミネーションやあちこちに現れるサンタクロースやトナカイ、店先ではそのサンタやトナカイの紛い物たちが客引きに精を出していた。
ひゅう、とおもむろに冷たい風が吹く。
祥子は体を小さく震わせ、マフラーとコートの位置を直す。空はどんよりとした曇り空で、この時期なら雨よりも雪が降りそうだと感じさせる黒い雲に覆われていた。
少し艶を失った黒髪、疲れたように目元は落ち込み背中が気持ち曲がっているように見えなくもない彼女は一人煌びやかな街を歩く。
特に顔が秀でているわけではないが、どこか可愛らしい印象を持てるはずの顔はなぜかひどく疲れていた。
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