猫に珈琲の味は分からない

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「あの……ここって何のお店なんですか?」 「リサイクルショップですよ」 「ええと、それは表にも書いてあったんですが商品はあの瓶だけなんですか?」 「瓶? ああ、なるほど、いえいえうちの商品はあの瓶の中身でさあ」 「中身? でも中には何も……あのキラキラしたものですか?」 「そうですそうです、あれがあっしの取り扱ってるもの何でさあ」 「あれって何なんですか?」  猫はその言葉には答えずに、自分の分のコーヒーをカップに注ぐと椅子を持ってきてカウンターを挟んで祥子のと向かい合う形で腰掛けた。 「それをお教えする前に、少しばかりお話させて頂けやせんかね」 「話って?」 「お客さんのお悩みについてです。、これはあっしの勝手なルールなんですがね、商品をお売りする前にお客さんと話をしてその上で何をお売りするか、お客さんには何が必要なのかを判断させて頂いているんでさ」 「悩み……ですか?」 「ええ、ここに来たって事は大なり小なり悩みを抱えてるって事ですからねえ。それにお客さん最初こそ驚きはしてたみたいですが、もうあっしを受け入れてらっしゃる。それはつまるところ、目の前でデカい猫が喋っていても気にならないほどお疲れって事じゃあないんですかい?」 「そうかも……しれませんね」  彼女は猫の言葉通り、この非現実的な空間をすでに受け入れていた。  人間サイズの猫がいようが、喋ろうがコーヒーをサービスしてくれようが、それすらあっさりと受け入れてしまうほど彼女は疲れていた。
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