猫に珈琲の味は分からない

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「もちろん無理にとは言いやせん、お話したくなかったら帰ってもらってけっこうです。ただあっしは見ての通りの猫ですからね、人に話せない悩みを話すにゃあちょうどいいと思うんですがね」  祥子は普段あまり悩みや愚痴を人に漏らさない、誰かに不平不満や悩みを言った所ですっきりできるのは自分だけだろうし、相手の気分を害してしまう事があるだろうという考えを持っているからだ。  それに何てことなしに言った愚痴や文句が、思わぬ形で広がり揉めている人間を彼女は何人も見ている。  そういった事もあり、できるだけ人に文句や愚痴を言わないのだ。  だが今の自分の前にいるのは人間ではない、ただのデカい猫だ。  変わったコーヒーを淹れる、気の良いデカい猫。人に話すよりもずっと気楽に話せそうだ。 「さて、どうされやすか」 「じゃあ……話を聞いて貰ってもいいですか?」 「もちろん、喜んで」  猫は話を聞くために、真っ直ぐに祥子の目を見た。  キラキラと美しい金色の目、あまりにも澄んだその瞳が眩しくて彼女は思わず目を背けそうになった。  だがそれは目の前で自分の話を聞いてくれる猫に対して、あまりにも失礼だという事に気付き目を背けるのをやめ、大きく息を吸ってから口を開く。 「少し……疲れてまして」
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