猫に珈琲の味は分からない

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「理由は?」 「私を見ているとムカつくらしいんです、自分の意見が無くて周りに気を使ってる良い人アピールが鼻につくらしくて」 「良い人アピール、ですか」 「ええ、私はそんなつもりは無いんです。昔から困ってる人は助けてあげなさい、手伝ってあげなさいって教えられてきましたから。でも周りはそれが面白くないらしくて」 「誰かにそれを言われたんで?」 「直接じゃなく陰で言ってるのを聞いてしまって……直接言われるよりも……悲しくて」 「なるほど……それはお辛いですねぇ、しかもその様子だとそこまで仲が悪いと思っていた相手では無かったんでしょう?」 「はい、私は……仲良くできてると思ってて」  悲しげにそう呟くと、祥子は自分の前に置かれた冷め始めているコーヒーを飲む。  二口ほど飲み、半分ほど残して彼女はまたカップを置いた。 「私、これが初めてじゃないんですよ。昔から言われてたんです、良い人アピールとか点数稼ぎとか優等生気取りとか。でもずっとずっと聞こえないフリしてたんです、自分のしてる事は間違いじゃないってそう思って知らないフリしてたんですよ」  机に置いた彼女の手の平に力が入る。  今までもそうだった、ずっと彼女は心無い言葉に晒されていた。  小学生くらいまでは良かった、周りは偉いと褒めてくれたし友達からも素直なありがとうをもらえていた。  だが中学、高校と年齢を重ねるうちに周りからの目は冷たくなっていった。  教師などの大人からの評判は悪くなかったが、それが余計に彼女の立場を悪くした。  同級生の一部からは点数稼ぎやゴマ擦りと陰口を叩かれ、あからさまに避けられたりなどの陰湿な嫌がらせを受ける事もあった。
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