猫に珈琲の味は分からない

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「陰口を言われて、彼氏にはつまらないって言われたあげくに振られて。もうどうしたらいいのか分からなく……なっちゃって……」  祥子はそこまで言うと静かに泣きだしてしまった、頬を伝う涙に気付いた時にはもう手遅れでそこからはどうしても流れ出す涙を止めることができなくなってしまった。  せき止めていた、押し殺していた思いは涙となって流れ出す。彼女は声を殺しながら、肩を震わせて泣く。  猫は静かに白いハンカチを差し出した。 「あり……がとう……ございます」 「泣いてください、思う存分。あっしがいない方がいいなら奥に行ってますから」 「いえ……ここにいてください」  ここから彼女が泣き止むまで、時間にして十分ほどかかった。  グスグスと泣く彼女の側で、猫は静かに苦いコーヒーを淹れていた。
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