猫に珈琲の味は分からない

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「……すいません、これは洗ってお返ししますね」  泣き止んだ祥子は、恥ずかしそうに涙でグチャグチャになったハンカチを持ったまま顔を赤らめていた。 「いえいえ、お気になさらず。泣くのは久方ぶりで?」  猫はそう言って笑顔を見せながら、冷めたコーヒーを下げ新しいカップに温かいコーヒーを注ぎ差し出した。  猫の問いに小さく頷きながら、祥子はコーヒーを飲む。独特な苦みが不思議と癖になったのか、最初よりもずっと飲みやすかった。 「みっともないですよね、愚痴って泣いて……」 「そんな事はありやせんよ、感情ってのは水と一緒でずうっと留めておくと濁っちまう。だから泣いたり愚痴ったりして、時々流してやらねえと駄目なんでさあ」 「そう……かもしれませんね」  猫も自分のカップにコーヒーを注ぐ、可愛らしい手からは想像できないほど慣れた手つきに感心しながら、祥子はコーヒーを飲んだ。
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