猫に珈琲の味は分からない

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「お客さん、今の話を聞いててあっしがどうしても言いたい事があるんですが聞いてくれやすかい?」  猫はコーヒーを一口飲んだ後、髭を少し垂らしながらそう呟いた。 「言いたい事?」 「ええ、でもあっしはただの猫なもんで見当はずれな事を言っちまうかもしれやせん。だもんで話半分に聞いてくれると助かるんですが、よろしいですか?」 「分かりました、じゃあ話半分で聞きます」  そう答えた祥子を見て、ニヤリと嬉しそうに猫は笑う。  それを見た祥子も、それに応えるようにニヤリと笑った。 「お客さんは何にも間違っちゃあいやせんよ、もちろんおかしくもありやせん」 「でも周りはムカつくって、つまらないって言いますよ」 「それは仕方ない事なんでさあ、人間てやつは自分ができない事ができる人間を見るとどうしたって妬んじまう。凄いと思っていても、それを素直に認められる人間ってのは少ないもんなんですよ」 「でも……」 「でももへちまもありやんよお客さん、優しさってのはねつまらなくもなけりゃあムカつくようなもんでもない。この世で一番大事なことなんでさあ」  猫ははっきりと、力強くそう言った。  それを祥子は素直に嬉しく思ったが、それでもまだ自分に自信を持てずにいる。自分が客で向こうが店員だから、猫だから。  ネガティブな感情は、猫の温かい言葉の熱を冷ましてしまう。  そんな彼女を見て、猫は肉球をポンと叩き少し待っていてほしいと伝えると店の奥へ姿を消した。
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