猫に珈琲の味は分からない

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「お待たせしやした。お客さん、こいつが何か分かりますかい?」  猫は店の奥から棚に並んでいるものと同じ瓶を、両手で抱えられるだけ持ってきた。  並べられた瓶の中にはやはり棚の物と同じような、キラキラとした何かが漂っている。 「これは……?」 「こいつはねえ、どっかの誰かが捨てちまった『優しさ』でさあ」 「え?」 「そろそろ最初の質問にお答えしやしょうか、初めに言った通りここはリサイクルショップ。でも取り扱ってるのは家電とかそういうのじゃなく、人の感情や心なんでさあ」 「感情? 心? どういうことですか?」 「文明が発展し、身の回りの生活がどんどん便利になっていく。産まれるもんがありゃあ捨てられるもんも当然ある、お客さんも例えば新しい家電とかを買ったら今まで使ってたのは売るなり捨てるなりするでしょう?」  その言葉に祥子は頷く、新しく何かが増えればその代わりに何かを捨てる。  それは当然の事だからだ。 「便利になっていく生活の中で、人間は自分の中にある綺麗なもんを簡単に捨てちまう。あっしにはそれがどうにもやるせなくてねえ、だからそいつを拾ってリサイクルする事にしたんでさあ」 「じゃあこのキラキラしてるのって、誰かが捨てた優しさって事ですか?」 「そういう事でさあ、見てくださいよ人間の優しさってのはこんなにも綺麗なんです。そこらの星やお月さんやお天道さんにだって負けやしない、綺麗なもんなんですよ」  瓶の中で輝く優しさたち、小さくともその輝きは強く眩しくそして優しい。  見ているだけで、心が潤んでいくようなそんな光を放っている。
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