猫に珈琲の味は分からない

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「この輝きがお客さんの中にはある、悪く言う人間はちょいとこの眩しさにやられちまってるだけなんでさ。きっとお客さんの優しい光は、誰かを照らして温めてる。もし今までがそうじゃなかったとしてもきっと、誰かを照らせるとあっしは思いやす」 「私の中に……この光が」 「それにねえお客さん、この優しさってやつは実は大して珍しくないんでさあ。街に出りゃそこら中に転がってる、裏の倉庫にも山のようにね」  猫の言葉は嘘ではない、その言葉通り優しさはもうそこら中に転がっている。  人間の中には優しさなど、欠片も残っていないのではと思ってしまうほどあちこちに転がっているのだ。  地面に転がり、人に蹴られ踏まれても尚その輝きを失わない優しさ。それが猫にはたまらなく愛おしい、だから彼は見つけた優しさを片っ端から拾い集めている。 「つまるところ優しい人間が生きづらいのは当然の事なんでさあ、何てったって優しい人間の方が珍しいんですからねえ」  猫は少し悲し気な表情を見せる、髭は垂れ耳も力なくしおれていた。  だがそれを振り払うように顔をブルブルと振るわせた猫は、後ろの棚に置いてあった赤い蓋の瓶を取り先ほどと同じように彼女の前に置く。 「これは?」 「あっしの長話を聞いてくださったお客さんへのお礼でさあ、お客さんにはこいつが必要だと思いやしてね」  猫は瓶の蓋を取り、おもむろにその中へ腕を突っ込んだ。  キラキラと赤い光を放つ星のようなものを一つ掴む、瓶の外へ出た赤い星は更に光を強めたようで、猫の手の平からは赤い光が漏れ出していた。
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