猫に珈琲の味は分からない

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「さて、本日はどうもありがとうございやした。まずいコーヒーに猫の長話、ずいぶんとお時間を取らせちまって」 「そんな事ありません、私ここに来た事も猫さんと話した事も絶対に忘れません。また来ますから」 「ええ、ええ。またのお越しを気長に待ってやす、でもできれば来ない方がいいとは思いますがねえ」 「どうしてですか?」 「こんなとこに何度も来てたら、服が毛だらけになっちまいやすからねえ」  その言葉に祥子は楽しそうに笑ってから、財布を取り出した。  温かな自信と少し苦いがコーヒーを何杯も飲んだのだ、それ相応の額を手渡そうと彼女は考えていた。 「自信のお代はいりやせん。頂くならそうですねえ……コーヒー代は貰いやしょうか」  猫は千円で良いと言ったが、それでは安すぎると彼女は五千円を手渡した。  それを猫は最後まで拒んでいたが、けっきょく祥子の熱に負けて受け取った。  コートとマフラーを着て、頭を下げて店を出て行こうとする彼女に猫もまた深々と頭を下げる。 「本日は本当に、ありがとうございやした」
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