猫に珈琲の味は分からない

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 カランカランと入口の鈴が澄んだ音を響かせる、祥子は目を丸くしながら店の中央へ足を進めた。  店内はこじんまりとしているが、天井が高いおかげかそこまで狭くは感じない。床は木製で、彼女が一歩足を進めるたびにギイギイと音が鳴る。  部屋に窓は無く、両脇に大きな棚があり何かはよく分からないがキラキラと光る何かが入った瓶が並んでいた。  横長のバーのカウンターのような机の後ろにも瓶がいくつも並んでおり、机の上ではサイフォン式のコーヒーメーカーが静かに動いている。  部屋の隅には懐かしい白い石油ストーブがあり、懸命に部屋を暖めていた。  リサイクルショップと書いてあったため、もっとゴチャゴチャした店内を祥子は想像していたが、それに反して驚くほどに物が無い。  きっとオープンしたばかりなのだろうと考え、彼女は店の中央に立つ。  この『わ』という店は不思議な感覚のする店だった。  初めて来たというのにどこか懐かしい、一度来た事があったかもしれないと思ってしまうような心が溶けていくような感覚がある。    祥子はその懐かしい感覚に僅かだが心を癒された、そしてふと棚に置かれた瓶に目が行く。  中にはよく分からないキラキラと光る粒子のような物が、不規則に漂っている。  祥子がその瓶に思わず手を触れようとした時、店の奥から急いだような足音が聞こえてきた。   「いやあ、すいやせん。お客さんが来てたとは、どうもお待たせしてしまいやして」  店の奥から慌てて出てきた人影は、その軽薄そうな言葉とは裏腹に丁寧に頭を下げる。  それを祥子は目を大きく丸くして、開いた口も閉じないままで見ていた。  彼女は今年で二十六歳になる、すでに十分大人だと言える彼女がどうしてそんな間抜けな顔をしてしまったのかという原因は、奥から現れた影に原因があった。
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