猫に珈琲の味は分からない

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 店の奥から現れた影、それは猫だった。  猫だ、大きな猫なのだ。  茶色の毛をベースに黒い縞模様の入ったキジトラ猫、口元と手足の先だけが白い。  後ろから生えた尻尾も茶色と黒の縞々模様で、彼女を見るその目は美しい金色をしていた。  全体的に毛の量が多いのか、シュっとしたスマートな猫ではなく愛嬌のある丸みを持つ青い腹掛けをした猫は、驚いている彼女を不思議そうに見ている。    彼女は最初、そういう仮装をして接客する店なのかもしれないと考えた。  だがいかに精巧に造られた仮装をしていても、さすがにそれが作り物である事は分かる。それがどうだ、目の前にいる猫は作り物にしてはあまりにも生気に満ち満ちている。  毛は見ただけでふんわりとしている事が分かる上に、尻尾や耳も彼女が知っている猫と同じようにピコピコと極々自然な動きをしている。  デフォルメされたキャラクターのような猫ではなく、例えるなら『その辺にいる普通の猫が人間サイズまで大きくなって腹掛けをし、二足歩行している』といった具合だ。  彼女の目が丸くなり、口が閉じなくなるのも無理からぬ話だろう。
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