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唾液
僕は彼女の髪をそっと撫でる
サラサラの髪、僕も君と同じシャンプーだよ。
暗い部屋、彼女は無防備に寝ている。
半袖で短パン、彼女の白い腕とすらっとした足はすべすべしていて。暗い部屋によく映えている。
彼女はきっと僕に気が付いていない。
きっと。
いつも君がご飯を美味しそうに食べているところ。
いつも君がゴロゴロしながら漫画を読んでいること。
いつも見てるよ。なんでも知ってるよ。
いつも歌う鼻歌が「3月9日」なこと。
君はレミオロメンが好きなんだよね。
僕と一緒だね。
僕はずっと君をみているよ。
たまに君が外に出ると、帰る時には君の顔は濡れているよね。雨は降っていなかったのに。
僕がこっそり傘を渡せれば良いんだけど。
そうしたら、君はきっと、びっくりしちゃって僕をどこかへ連れて行ってしまいそうだね。
4人は住めそうなマンションに君は一人で、いつもいる。
引っ越されたら僕が困るけどね。できれば一生この部屋にいてほしい。
僕はふふっと笑いながら君の首を舐める。
君は起きていない。
だって、僕に気が付いていないから。
僕はしばらくどうしようか迷って、君の寝顔をじっとみた。
いつ見ても、というか見なくたって
可愛くて可愛くて、僕みたいな馬鹿には言い表せない。
君の髪から首筋、肩、胸、胴、腰、太もも、ふくらはぎ。
僕の見込んだ通りだね。
ありがとう、君が君でいてくれて。
君はなんの夢を見ているんだろう。
僕かな、僕だろうな。きっと僕だ。きっと。
もしかして彼氏がいるのかな?
なんて、そんな馬鹿なことないよね。
だって君。線香臭いもん。
君はいつも線香の香りがしているよ。
部屋で線香を焚きまくったらそりゃ匂いも染みつくよ。
でも。もう、いいんじゃない?
そろそろ線香から卒業してよ。
僕はもういいよ。
目をさまさないでいいよ。
「あれ?タク君?ずーっと私の隣に寝てたの?も〜しょーがないにゃあ!」
なんて、言わないでよ。
「ご飯かな?お水?タク君!お返事は?」
いやだ。もう、返事なんてしたくないよ。
「タク君?どーしたの?」
君は指を差し出す。僕はそれを舐める。
「なあ、なー」
「にゃー…」
君は僕を抱っこする。
本当は僕がしたいよ。
こんな爪のある手じゃなくて、力強く握りたいよ。5本の指があれば、もふもふの手さえなければ出来るのに。
君は歩いて写真立ての前に行く。
「タク君」
やめてよ
「タク君?」
そんな濡れた顔を近づけないでよ。
「ターク君。ね、もう1ヶ月だよ。」
「夢にも出てこないなんてさあ!」
いやだ。もういいんだ。
「こんな広いマンションでひとりぼっちだよ?」
やめてよ。違うんだ。
「ねえ。タク君」
君はぎゅっと僕を抱きしめる
「会いたいなあ…今日…お盆だよ…ばか」
泣かないでよ。
僕はいるよ。
猫になっても。
死んでも。
君の手を甘噛みする。
ちょっと強めに、跡がつくくらい。
「いだっ!タッ君?いててテテ…噛む子じゃないのになあ…?」
「にゃあ!」
僕は今までで一番大きい声を出す。
それを君がどう受け取ったかはわからないけど。
微笑んだのを見て、僕は君に飛びついた。
いつか、きっといつかでいいから。
僕を忘れてね。
線香なんて炊かなくてもいいんだ。
僕だけが片想いで良いんだからね。
君は生きてね。
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