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これだけ読まれもしない作品を書き続けても意味がないとは知っている。それでも書かずにはいられないと言う、心構えだけは一丁前な俺は酷く虚しい。
いつかは芽が出るものだと信じて小説を書き続けて、もう四年が経つんだ。俺は引くに引けない状況の渦に巻き込まれているだけなのかも知れない。
面白いか面白くないかも分からないファンタジーの続きを書き進め、腹が減ればファミレスに行き食事をとりながら物語を書く。そんな事をしていると一日と言うのはあっという間に終わって行く。
ピロンと携帯が鳴り、開いてみるとかつて投稿していた小説サイトからの通知だった。もしかして、書籍化の依頼?だなんて思ってワクワク出来たのは最初の一、二年くらいだ。
携帯に表示された通知を見て、俺はため息を漏らした。
『IROHAさんが新作を投稿しました!』
「よくもまあ、これだけ作品を投稿出来るものだ」
IROHAというのは作家の名前で、かつては俺もその文才に憧れていた。IROHAさんの作品は全て読みたいと思ったし、どんな人なのかも気になった。けれども、IROHAさんが賞を受賞した時、俺とは別の世界の人なのだと思い、伸ばす手を引っ込めた。
IROHAさんが作品を出すたびにコメントをして、逆に俺が作品を出すたびにコメントをくれた。作家を応援するスターなんかも送り合ってたくらいだ。
久々にIROHAさんの作品を読んで見たい気もするのだが、惨めな自分が際立って泣きたくなるから通知は消して、サイトは開かない。
もう俺はIROHAさんのいるサイトに小説を投稿することは無い。
自分とIROHAさんを比べてしまうという事もあるが、それ以外にも俺の書こうとしているジャンルには合わないのだ。でも、結局のところはそれさえも言い訳のように思えて、またしても笑けてくる。
俺はつまらないファンタジー小説をもう少しだけ進めてから、帰宅する事にした。
外に出ると冬の冷えた空気が血液を巡っていくようで気持ちが良かった。と、同時に鼻に突っかかる程の冷たさで、直ぐにマフラーを巻いた。
家に着くと、今朝はいなかった両親が帰宅していた。
二人とも居間でお笑い番組を見ながら、みかんを食べている。そっと扉をあけて覗いてみると、柔らかい笑顔で二人は「おかえり」と言った。
「ただいま」
俺はそう言い残すと直ぐに自室に籠って、帰って来るまでの間に思い付いたストーリー展開を書き始めた。
けれれども、一度は広がりかけていた世界が突如真っ暗になり、崩れ落ちた。
仕事の疲れと会社の疲れもここ最近は溜まって行くばかり。同世代の人達は今だに学生だったり、就職していても遊び歩いていたりと価値観も合わない為、話し相手にもなり得ない。
俺はそんな人たちをバカにしているわけでは無い、人にはそれぞれの悩みがあるだろうし、それぞれのやるべき事がある。
若いうちに遊んでおくというのも大切なのだろうし、俺にそれができないというだけだ。それには他から見たら俺の売れない小説だって時間の無駄でしかないはずだ。
静かな夜のせいか、このくだらない人生に嫌気が差す。だから、俺は眠りについた。
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