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こんな生活がさらに半年ほど続いたある日、俺は会社でミスをしてしまった。
そのせいで、クレームにあい知りもしない人から延々とお叱りを受けていた。やりたくてやったミスではないが、社会でそんな事は通じない。ミスは悪だ。
時刻が十九時を回った頃、上司の佐藤さんが言った。
「お前は残りの仕事やってから帰れよ。残業は嫌だろうが自己責任だなぁ、まあ誰もが通る道だ。落ち込むなよ?俺なんてお前の十倍くらいはミスして来たんだからな」
「ありがとうございます」
力無く挨拶をして、佐藤さんの顔も見れず日中に出来なかった仕事に取り掛かった。
しばらくして、ドアの閉まる音がしたから、佐藤さんが帰宅したのだろうと思った。
俺は、それから二時間ほど作業をこなし、警備員しかいなくなった会社を後にした。
帰りの電車がいつもより空いていて、珍しく椅子に座れた。
こんな災難な日は嫌いな酒を飲んで眠るに限る。そう思っていた俺は、地元に着くとコンビニに立ち寄った。適当なつまみと梅酒をカゴに入れた。
コンビニを出てすぐに梅酒の缶を開け、冬の夜空に向かって乾杯をした。その時、俺の携帯にピロンという通知が届き、不覚にも確認してしまった。
携帯にくる連絡にはいい思い出がないのだが、なぜか開けてしまう。自らの無力さを知った今でも書籍化のオファーなんて奇跡を願っているのかも知れない。
「え、三百?」
俺は数字を呟き、画面に映し出された文字を再度読んだ。
『UENOさん、三百スターおめでとうございます!』
運営からのメッセージだった。
これは大したことではないのだが、一番気がかりだったのは誰が俺のかつての小説にスターを押したのかというとこだった。ずっと動いてはいないアカウントの小説は読まれることなんて無いはずなのに、一年という年月が経った今になって伸びるとはおかしな話だ。
俺はサイトを久しく開いた。そうして分かった事があった。
三百スターを獲得した作品には毎日、1スターが届いていた。
そのスターを送ってくれていたのが、IROHAさんだった。
IROHAさんは毎日欠かす事なく俺の駄作にスターを送り続けてくれていた。そのことを知って、俺の涙腺が緩んでいくのを感じた。
普段は冷静で涙なんて流さないタイプなのに、今は自然に涙が溢れてくる。
応援メッセージのような言葉は無かったけれど、このスターが俺に頑張れと言っていた。
俺の書く作品を待ってくれていた。
気を使われているのでは無いだろうか、一瞬そう考えてしまうがIROHAさんが俺にスターを送り続けているのはもう半年以上前からの毎日だ。とてもじゃないが、対面した事もない作家にただの気遣いでそこまでは出来ない。そう思った。
何故なら、俺ならば出来やしないことだから。
小説投稿サイトにいる人はどこまでの人が本気で書いているのかすらもわからない部分がある。俺もその一人なのに、そう思うと胸が苦しくて直ぐにでもメッセージを送りたくなった。
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