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神様、もう勇者はお腹いっぱいです。
「お疲れ様です」
受付窓口に戻ってきたエリカは、山積みになった「処理済」書類の横で突っ伏していた先輩に声を掛けた。
「あー……エリカもお疲れ」
「大丈夫ですか先輩。ていうかさすがの処理能力ですね、狂気の書類量だったのに全部終わったんですか」
顔を上げた先輩に感心した声を掛けると、
「そりゃね。今日は何が何でもエリカとデートしたかったし」
「なっ!」
ストレートに言われて思わず赤くなってしまう。
真面目な人なのでからかうつもりでも冗談でもなく、本気で言っていることがわかるからタチが悪い。特別イケメンって訳でもないし家柄が凄いなんてこともない。ごくごく普通の21才にしか過ぎないのに割とモテるのはこういった素直な人柄故だろう。
「ま、まあ私も楽しみにはしていましたけど……」
「それは嬉しいね。じゃあ残りも頑張って終わらせるとするか」
うーん、と伸びをするとデバイスに向かう。あれだけやってまだデータ処理をするつもりらしい。
「無理しないで下さいね先輩。あ、そうそう、今担当してきた人、私の中学時代の同級生だったんですよ」
「そうなのか、珍しいなあ。俺は3年やってるのに同じ中学どころか同じ県の人に会ったことすらないな」
「そりゃ先輩は鳥取ですもんね……そもそもの母数がアレですし」
「あ、鳥取バカにしたな」
本気で言ってる訳ではないことはお互いにわかっている。何しろ3年前にエリカが召喚された時に担当してくれた、その時からの付き合いだ。
誠実且つ真摯に対応してくれた彼のお陰で、エリカはくさることなくこの世界で頑張る事ができた。その時はこんな感情ではなかったけれども、理路整然と納得できるように話してくれた対応があったからこそ、彼女もまた彼のようになりたいと思った。
彼は担当した転移者が半年の猶予期間を終えた後、独り立ちする時には必ずお祝いに行き激励している。大半の人はそれっきりになって新しい道に進んでいくのだが、エリカは憧れが高じて進学し、こうして彼と同じ職場で働けるよう努力した。
いつからそういう感情を持ち始めたのか、今となっては定かではないけれどこうして通じ合ったのだから、3年の努力は無駄ではなかったと思う。
こきこきと肩を鳴らしながらデバイスに向かう彼に、
「先輩、手伝いますよ。何件か回して下さい」
「ありがとう助かるよ。それにしても、いい加減召喚玉も止まってくれないかなあ」
「ほんとですよね」
顔を見合わせて苦笑する。
こんな時に言う台詞はひとつ。この召喚課では決り文句として繁忙期によく使われる言葉だ。
「神様、もう勇者はお腹いっぱいです」
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