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俺はこれでも一応兄を信頼しているので、鼓膜を破られるような心配はしていない。兄は器用であり、突拍子もないことを言う割にこういう手先を使う作業は丁寧にやるのだ。
「よし、いくよ」
すると綿棒が控えめに俺の耳に入ってきて、浅めのところをさり、さりと擦り始めた。
さり、さり、さり。
何度も、耳の中で規則的に乾いた音が響く。
優しい綿棒の感触は気持ちいいが、ずっと耳穴の浅いところにしか刺激が無いのは少々じれったい。
「入れるぞー」
すると俺の気持ちが通じたかのように、耳かきがずずず、と奥まで入り込んできた。
ずずっ、と綿棒が内壁を擦る音が振動となって伝わってくる。待ちわびていた耳の奥に綿棒がやって来て、俺はつい口元がゆるむ。
「痛かったら言って」
「わかった」
ずずずっ、ずず、ずずず…。綿棒の出し入れがゆっくりと繰り返され、俺はじわじわと耳の中に気持ち良さが広がっていくのを感じた。自分で綿棒を入れるのとは異なり、予想外のところに刺激が来るのがとても良かった。自分で自分をマッサージしてもあまり気持ち良くないのと同じ原理だろうか。
「うーん、奥の方に小さいのが…」
という兄のつぶやきに、俺はなぜかちょっと恥ずかしくなる。気心の知れた兄だが、なんとなく自分の粗相を見られてしまった様でいたたまれない。
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