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兄が手にしているのは、木製のシンプルかつ伝統的な耳かきだ。耳かきと聞けば人々がまず想像するであろう、耳に入れる部分が傘の柄のようにカーブしていて、後ろにふわふわの白い梵天が付いたアレである。
かり、かり、と先ほどとは違うタイプの音が俺の耳の中に響く。綿棒は耳の中を撫でて圧迫するような刺激だが、こちらは耳の壁をかりかりと掻いて刺激してくれる。
「痒いとこある?」
「うーんと、もうちょい奥の方…」
そう、綿棒を抜かれた辺りから耳の奥の一か所がじわじわと疼き出して、俺を悶えさせていたのだった。
かり、かり。
「このへん?」
「あ、近い。あとちょっと内側」
「ほいっと」
かり。
瞬間。耳かきの反った部分が俺の痒いところをピンポイントで掻き、俺はえも言われぬ快感に支配される。
「そこ、もっとやって欲しい…」
恍惚とした俺はほぼ無意識に口走っていた。
「はーい」
兄の返事はゆるいものだったが、耳かきの動きは驚くほどに的確だった。かり、かり、かり、と痒みに疼いている部分を何度も違う向きから掻いてくれるので、毎回趣の異なる気持ち良さがある。俺はだらしなく口を半開きにし、兄に身を委ねた。
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