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かり、かり、かり。
かり、かり、かり。
やがて、耳かきの音に交じって、ざぁあぁぁ…という音がし始めた。雨が降ってきたのかもしれない。雨の音を聞きながら耳かきをされていると、俺は気持ちが安らぐのを感じた。
「…よし、こんなもんかな」
耳かきが引き抜かれると、俺の耳には心地よい余韻が残っていた。耳の中という中がすべて掻きつくされ、俺は非常に満足していた。
「じゃあ、梵天で綺麗にするよ」
「りょーかい」
もももっ、と入り込んできたふわふわの柔らかい綿が、きゅうっと俺の耳の奥まで詰め込まれた。それからゆっくりと時間をかけて引き出されていき、俺の耳の細かな耳垢をさらい取った。
「うん。元々綺麗だったけど、もっと綺麗になったな。あ。でも一応…」
「?」
すると、兄は俺の右耳に顔を寄せ、ふーっと優しく息を吹きかけてきた。ぬるい風が耳の中に吹き込み、なんとなく気持ちがいい。
「よし、今度こそおしまい。どうだった?俺の耳かき」
「正直、すげえ良かった。ほんと器用だよな」
「本当?弟に褒められて嬉しいな~。じゃあ反対の耳も…」
と言ったところで、兄がぴしりと固まった。
俺は怪訝に思って訊ねる。
「えっと、どうかした?兄貴」
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