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あ~、空が高いな~。 仕事中、職場のホテルの上階の窓辺で一休みしながら遠くに見える山を眺める。 木々の紅葉がはっきりわかるようになってきた。 朝晩寒いもんなあ。 このホテル自体は街中だから通勤時に木々の色づきなんか意識しなかったけど、こうしてふと四季の移ろいを感じられるのは良い事だな。仕事中だけど…。 客室通路の廊下の絨毯に掃除機をかけていて端に来た時に、ふと窓の外に意識を取られたのだ。 ほんの数秒か数十秒の事だけど、こういう特等席から景色を眺めて息抜きが出来るのは良い。 (そろそろ鍋なんか良いよなあ。白菜とかきのこ類とか。鶏肉入れるのも良いよな。 …陽一郎さん、鍋の具って何が好きかな。) 付き合いたてホヤホヤの綺麗な恋人の事を考えて、顔がニヤける。 同性と付き合うのは初めてで、最初は戸惑いもあったけれど、踏み入れてしまえばその関係は思いの外 自然で居心地が良い。 陽一郎さんは綺麗だし可愛いし性格も穏やか。何時もピシッと細身のスーツを着こなして、いい匂いをさせてるし、気遣いも細やかだ。 なのに夜はとても…それはもう淫らに、俺を欲しがって乱れてくれる。 俺は初めての同性の恋人にとってもとっても満足していた。 さてと。掃除機掛けに戻るか、とスイッチを入れようとした途端、ポケットの振動に気づく。 手袋を外してスマホを取り出すと、陽一郎さんからLIMEが来ていた。 ーーお仕事お疲れ様です。 明日、お休みですよね。 今夜のご予定、如何ですか?ーー なんとタイムリーな。 以心伝心かな。 すかさず返信する。 ーー陽一郎さんもお疲れ様。 お昼はちゃんと食べましたか? 明日休みです。 今夜は帰ったら鍋にしようと思ってるんですが、陽一郎さんご都合如何ですか?ーー ものの数十秒でまた返信。 ーー僕も明日休みなので泊まりに行って良いですか? 鍋嬉しいです。楽しみ(o^^o)ーー 「ぶふっ 」 顔文字可愛い。 「具は何がす、き、で、す、か、っと…。」 ーーお鍋って小さい頃に祖母の家で食べた以来です。 肉団子とか好きです。ーー 「マジか…。なら色々入れて好物を模索しないとな。」 ーーわかりました。他にも色々具材買って帰りますね。ーー ーー僕も一緒に買い物行きたいので一緒に帰ります。 帰りに近くで待ってて下さい。ーー 「おっ。良いね。わかりました、と。」 どうやら今日は一緒に帰れる流れ。 なんか同棲してる恋人っぽくね? ついつい浮かれてしまう俺。 俄然仕事にやる気が出てきたなあ。 「…ぅしっ!やるか!」 俺はキャップを被り直し、掃除機のスイッチを入れた。 「真治さん、お待たせしました。」 職場のホテルから少しだけ離れたコンビニで待っている旨の連絡を入れて10分も経たない内に陽一郎さんは来た。 今日も輝いてるな~。 一緒に飯食うようになってから、最初に会った時より俄然顔色が良くなったように思うのは、多分気の所為ではない。 だって肌艶や髪艶が明らかに良くなった。 抱いててもわかる、触り心地が変わったのが。 元々綺麗なキメ細かい肌はしてるんだけど、栄養が摂取出来てなかったからか、疲れていたんだろうな。 やっぱ食うって大事だわ。 「買い物行くんですか?」 並んで歩きながら俺の顔を覗き込む陽一郎さん。ヴッ…何それカッワ…。 この人どんどん俺の心侵食して来るな…。 「帰り道にあるスーパーに寄りますよ。」 「スーパーですか。楽しそうです。」 …楽しそう?? 「あんまり自分でコンビニ以外の買い物って行った事無くて。」 「あー、なるほど。お手伝いさんが行くんですね。」 因みに服とかはどうしてるのか聞いたら、普段着は出入りしてる百貨店の外商さんが揃えてくれて、スーツはお祖父さんの代からお世話になってる有名なテーラーのフルオーダーらしいです。 陽一郎さん本人はあまり服に興味が無いみたいなんだけど、質の良い似合う物を着ているのはプロにお任せだったからなのか。 それにしても、陽一郎さんと俺の組み合わせって、どう見えてるんだろう。 超絶イケメンαとうだつの上がらなそうな平凡βだなんて、どう見ても不釣り合いだろうな。 かといって性格的に自虐に走る事はないけど、陽一郎さんは平気なのかな…。 …と思ってたら、陽一郎さんが少し頬を染めて俺の袖を引いて耳打ちしてきた。 「真治さん、今日のダウン、素敵ですね…。はぁ…カッコ良い…。」 …要らん気を回してたようだわ。 本日の目玉 卵1パック(サイズMIX)108円 陽一郎さんはそれらのポップを興味深そうにじっと眺めている。 「卵にも大きさが…。」 「サイズがあるんだよ。」 セレブな生まれ育ちの陽一郎さんは全てが新鮮らしい。 カゴに入れた商品も物珍しげに眺めてるし、たまたま特売だったもやしの値段(19円)を見て悲しそうな顔をしていた。 「利益はちゃんと出てるんでしょうか…。」 俺の恋人は今日も頗る可愛い。
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