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⑥
…アラームが鳴ってる。
んん…朝か…仕事行かなきゃ…
起きなきゃな… でもあと5分…
あ!!
ガバッと覚醒と共に飛び起きる。
梁瀬さん泊めたんだったわ!
起こしてあげないとなんだった!!
ベッドに目をやる。
「あれ…?」
ベッドの上には布団が綺麗に直されていて、梁瀬さんはいない。
トイレや洗面所にもいないし、玄関に靴も無い。
帰ったんだろうか。
いや、どうやって帰ったんだろ?
現在地はスマホでわかるだろうから、それでタクシーでも呼んだのかな?
時計は5時3分。
「あ、LIME来てる…。」
ーーお世話になりました。ご迷惑おかけして申し訳ありません。
この埋め合わせはまた改めて。
ご馳走様でしたーー
…??
埋め合わせはともかく、ご馳走様でしたって何だろう??
ご馳走になったのはこっちなんだけど?
首を捻る俺。
間違いかなあ?
…ま、いっか。寝直そ。
未だこの時間だけど、既読付けちゃったし返信しとくか。
ーーこちらこそご馳走様でした。
お酒抜けたんでしょうか?
お仕事頑張って下さい。ーー
それだけ送ってスマホを置き、ベッドで寝ようと布団を捲るとフワッと梁瀬さんの香りがした。
なんだろ、あの人の使ってる香水、すごい良い香りするよな。
高そう。あの人にすごい似合う。
せいぜい柔軟剤の香り程度しかしないだろう俺には無縁のものだけど。
枕からも梁瀬さんの香りがして、何だか変な気分になる。
よもや他の男の匂いに包まれて眠る日が来るとは…。
そんな事を思いながら何時の間にかウトウト寝入ってしまっていた。
再び目覚めたのは昼過ぎ。
流石に腹が減って、起きる事を決意。
どうしよ、ラーメンでも作ろっかなあ…と考えながら洗面所へ向かった。
顔を洗い、髪の寝癖を見ようと鏡を見ると何だか違和感がある。
「…?何で…。」
首筋、鎖骨辺りに赤い鬱血痕。
色事がご無沙汰で疎い俺でもそれが何かくらいわかる。
「…梁瀬さん…もしかして…。」
ご馳走様って、この事?
いやでも尻に違和感とか、無いけど…。只、なんかこう…一度起きた時に妙な倦怠感はあったけど…数時間で起きたからかと思ってた…。
(…いや、待てよ。)
カウチとベッドの近くに置いてるゴミ箱を漁る。
「…あちゃ~…。」
ご馳走様の正体ってこれか…。
ゴミ箱の中には、口を結ばれた避妊具がティッシュに包まれて捨てられていた。
俺の尻が違和感も無く無事だって事は、俺のブツが梁瀬さんに…って事だよな。
…待てよ?
梁瀬さんが自慰をした後なだけ、っていう可能性も…?
…いや、それならわざわざご馳走様は無いよな。
あ~、俺はマジで梁瀬さんとヤっちまったのか?
首筋を愛撫されてたのはうっすら覚えてるんだけど、あれってこんなに痕残る迄されてたんだな。
…え、ちょっと待てよ…?
ガバッ、と部屋着のシャツを胸迄捲り上げる。臍の周りにも鬱血痕。
そろ~っとスウェットパンツと下着をずり下ろして確認すると、下腹部や内股にも痕が。
ど、どんだけ吸引力強いの梁瀬さん…!!
ここ迄されてたとなると、想像にしか過ぎないけど…口でも、俺のを色々してくれたと考える方が自然、だよなあ…。
……お、覚えてないのが残念な気持ちになってるのは何故なんだ。普通、寝込みを襲われたとわかれば怒るとこだよな。
俺、異性愛者のつもりで生きてたのに。
色事が久々過ぎてとち狂ったのだろうか。
それとも、これがαマジック…?
いやでもそもそもαって…突っ込まれる側じゃなくね?
それとも、αにも色々いるって事かなァ…。
結局、昼も食わずもんもんとしながら悩んでいたら既に夕方になっていた。
はっ、1日潰れてしまった、と我に返る。
食料品の買い物だけでも行っとかなきゃ明日からまた3日は勤務だ。
切れそうな日用品も買い足しとかないと。
仕事帰りには真っ直ぐ帰って来たい派の俺は、買い物は休日にと決めているのだ。
パーカーを羽織りスマホと財布を持って部屋を出る。
階段を降りているとスマホがポケットの中で振動した。
見るとLIMEにバッジがついている。
開いてみると、梁瀬さんだったのでドキリとする。
ーー仕事終わりました。
今日、真治さんお休みだったんですね。
この後少しお伺いしてもよろしいでしょうか。ーー
(えー…昨日の今日で…?)
内心、困惑する。
抱いちゃったかもしれん男に、どんな顔して会ったら良いんじゃい。
返事を躊躇っていると再び梁瀬さんから…。
ーー西京漬けとかお好きですか?ーーー
え、西京漬け? 好き。
「好きで、す、が、何故で、す、か…と。」
返信を打つとまた直ぐ返ってきた。
ーーーいただき物がたくさんありまして、持って帰っても困るなと思いまして。ーーー
「あ、なるほど~。」
西京漬けかあ、自分じゃなかなか買う事ないやつ~。
え、でも貰っちゃって良いのかなあ。そんな良さげなやつ。
…あ、待てよ。じゃあ、
ーーーなら今夜、ウチで晩飯食いませんか?ーーーー
と、返信した。
ものの数秒後、
ーーーご馳走になります。
楽しみです。ーー
と返ってきた。
「よし。じゃあ、先に飯炊いとくか。」
俺は急いで部屋に戻り、米を研いで炊飯器をセットしてから再び部屋を出た。
近くのスーパーで野菜や豆腐、挽肉、ボディソープの詰め替え諸々をパーッと買い込み、部屋に戻ると2人分の晩飯の支度をする為にキッチンに立った。
材料を切って、焼くか煮るか茹でるかくらいの簡単な事しか出来ないけど、それなりに食えるものは出来る。
育ちの良い金持ちのお口に合うかは知らんが、こっちが庶民なのはわかってんだし多くは求めてこないだろ。
キャベツを切り、もやしを洗ってザルで水切りをしながら、俺はそんな事を考えていた。
危機感?いや俺、男だし。
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