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結婚…。 これ迄の人生で、一度も考えた事が無い訳ではない。 何時かはするんだろーな、程度だけど。 それなりの年齢で、好きな人として、その内子供でもできたらお父さんとかパパとか呼ばれて。 銀行に勤めてた頃はよく見合い話も舞い込んで来た。 今の職場にシフトしてからは一切なくなり、それと共に自分自身も興味を無くしていた。 それがまさか、同性にプロポーズされる事で再び意識する事になるとは…。 何とも言えない雰囲気の中食事を終え、お茶を入れた。安物の番茶である。 「結婚してくれませんか。」 「いや、早過ぎませんか。」 思わず素で答えてしまった。 いやだって2日目。 俺が梁瀬さんと出会って、未だ2日目なんである。 出会って2日目の同性にプロポーズとかって、普通なの? もしかして俺が知らないだけかな…? いや冷静になろう。 やっぱ普通じゃないわ。 「大体、不本意でしょうけど、現在進行形で婚約者の方がおられる訳ですし…。」 そうだよ。肉体関係持っちゃった事知られたら、慰謝料請求とかされちゃうんじゃね? いや困るなそれは…。 「それについては、申し訳無いと思っています。」 「ですよね。」 「真治さんには本当に申し訳無いと…。」 「え、俺に?」 そりゃまあ俺も、寝てる間に奪われていた訳だから、、、でも婚約者の人には? 「いや、彼には長年の取り巻きのセフレ達が現在進行形でたくさんいるので、俺の事をとやかく言えた義理では無いでしょう。」 吐き捨てるように言う梁瀬さん。わぁ、こんな激しい一面もあるんだね! 嫌いじゃない。 「少なくとも不貞行為かどうかと言う点では、知られたってあちらに責められる筋合いではないです。それに僕のは本気なので。」 「まあ、梁瀬さんの言う事はわかりますが、そうは言っても婚約中なのは確かですし、俺には何ともお答え出来ないと言うか…。」 梁瀬さんはしょんぼりしながら湯呑みの茶を啜っている。 「…すいません。」 その姿が本当に可哀想で、良心の呵責が。何故だ。 俺はまっとうな事しか言ってない筈なのに…。 気不味い沈黙。 と、梁瀬さんが口を開いた。 「…真治さん。」 「…はい?」 「僕、真治さんと出会って間も無いんですけど、こんなに人を好きになれたの初めてなんです。」 「…ありがとうございます?」 この答えって正解なのか悩むな…。 と言うか、マジで俺の何にそんなに…という感想しかないので…。 「僕、貴方を諦めたらこの先自分の人生を取り戻せる事、無いだろうと思うんですよね。」 「…そう、ですか?」 「婚約者持ちの僕が言うのも何なんですが、僕と結婚を前提にお付き合いして下さいませんか。」 「…いや、それは~…。」 「友達から、なんて言っといて段階すっ飛ばしてしまって申し訳無いと思っています。」 「……あ、いえ…はい。」 「責任は取ります。」 「…いや俺、男ですし…。」 「お付き合い、考えていただけませんか。」 「……」 「そして、一緒に父にあって欲しいんです。」 「は、え?」 「僕の結婚相手として、父に会って欲しいんです。 そしてあちらとの婚約もできれば穏便に解消する努力はしたいと思っています。 どうせ反対はされるでしょうが、それなら僕も後継者の座は捨てる覚悟なので。」 「…後継者?」 は、と梁瀬さんが何かに気づき、笑いながら俺に言った。 「僕、あのホテルグループの創始者の孫なんです。 今は父がグループ総帥で。」 「…は、はあ?」 え、ちょっと待って。 展開が目まぐるし過ぎる。 俺、めっちゃヤバい立場に立たされてない? て事は、俺のせいで次の世代の後継者(梁瀬さん)が後継しなくなるかもって事? 「ととととんでもないですっ!!」 俺は後退った。 そりゃ、本社の人間だしαだからそれなりの家の人だろうと思ってはいたが、まさかグループ御曹司だったとは。 しかも、婚約者はともかく、後継の座を俺が蹴らせてしまう事になるかもしれないなんて。 生まれてこのかた少々道を斜めにズレながらも それなりの平凡人生を送ってきた俺には荷が重過ぎる。 今度は俺が涙目になってしまう。 すると俺のテンパる様子をじっと見ていた梁瀬さんは、座っていた位置から俺のとこににじり寄り、俺は座ったままの状態で床に倒された。 押し倒されて腰を跨がれた形で梁瀬さんを見上げる俺。 ぺろりと舌舐めずりする梁瀬さん。 その様は、凛々しく綺麗な男がやるからこそ、妙に淫靡だ。 その表情に何故か腰がぞくりとする俺。 「僕ね、」 静かに言葉を発する梁瀬さん。 「大っきいので奥まで抉られるのが大好きなんですよ。 Ωでも女性でも、どちらにしろ子作りなんか、出来るわけ無いと思いません?」 や、やっぱりソッチだったのか!! 「だから、ね。 僕を奪って下さいよ、真治さん。」 下りてくる綺麗な顔、さらりと頬を撫でてくる髪、薄いのに柔らかな弾力の甘い唇。 そして例の、クラクラするほど良い香り。 これって、本当にトワレなのか?それともαの香りなのか。 でも俺みたいなβにも、αの香りって嗅ぎ取れるもんなの? (ダメだ、触れられると…。) 目を閉じて受け入れてしまう。 髪に指を絡められると無条件で服従してしまう。何故だ。 ああ、どうやら俺はこの人に逆らえない。
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