冬休みは友達の家にお泊まり

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冬休みは友達の家にお泊まり

エリオと中庭で密会?するようになって2週間。 未だに王太子は俺達2人を休憩時間毎に探しているようだ。 めんどい。 遭遇する度にどんどん目が血走ってってるのが気持ち悪い。 必死か。 あのポンコツ殿下の様子を見るにつけ、そろそろ此処も潮時かなあと思う。 経験上、これ以上は厄介事になる予感しかしないし、次にいけと脳内シグナルは赤点滅寸前なんだけど、エリオに対する未練が俺の決意を鈍らせていた。 「セス!セス、見て!」 すっかり口調の砕けたエリオが満面の笑みで俺を呼ぶ。 窓の外を見ると、夜空から ふわりふわりと雪が。 「一際寒いと思ったら、雪だよ。」 舞い落ちる雪を見上げるエリオは楽しげに言った。 何を隠そう、此処はエリオの部屋である。 中庭でエリオの秘密を共有した俺達は、急速に親しくなった。 正確には、素直なエリオが俺に心を開いてくれたというか。 それで、冬季休暇の間、帰省しないのであればウチにおいでよ!!というエリオのお誘いに乗らせてもらったのだ。 国で色々やらかしてるから未だほとぼりはさめないと思うし…。 エリオの実家、レニングスト公爵家は 王国随一の武門の家だった。 以前、エリオと共に王太子に求婚されたという兄君は、エリオとは真逆のタイプの背の高い美丈夫だった。 …どえらい美形には違いないけど、想像とは違ったな。 男男しとる。 王太子みたいに暑苦しくはなくてクールビューティーだけど。 あの王太子、美形ならタイプは問わんのか。節操ねーな。 父君の公爵閣下はこれまた壮年の美丈夫。 若い頃は兄君そっくりだったんじゃなかろうか。 母君はエリオによく似た面差しの美しく 優しそうで、おっとりした貴婦人だった。 エリオに友達が出来ないのを本気で心配していたらしい御家族の皆様は、俺を手放しで歓迎してくれた。 …純粋無垢なお宅の息子さんに邪な心を持っててすいません、という気持ち…。 国は何処かとか、家族は元気かとか、この国はどうかとか、そんな話を丁寧に聞かれ、食事の席は本当に楽しい。 そして、公爵閣下は俺が殿下に言い寄られている事もご存知でいらして、すごく同情された。 「不敬を覚悟で言うが、あの殿下は何故あんなにも軽はずみなのだろうか。」 鹿肉のステーキにナイフを入れながら、眉間の皺が凄い閣下。 あ、やっぱ思ってんだ。 「陛下のたってのお望みでなければ、あのようなお方にエリオを…。全く忌々しい。」 それを聞いたエリオは眉を下げてしょんもりし、兄君と母君は力無く苦笑した。 「今回も検査の結果は同じだったのか?」 クールビューティだけど実は笑顔の優しい兄君がエリオに聞いた。 …検査?エリオ、何か病気? 驚いて横の席のエリオを見ると、エリオは苦笑いして、 「私、バース性が未だ出ないんだ。」 と言った。 俺はびっくりした。 通常、バース検査での判定はどんなに遅くても15歳迄に判定が出るものだと言われている。 早ければ生まれながらに既に発現されているし、検査で一番判定され易いのが8~12歳頃。 つまり、学校に通い出す前にはとうにわかっているものなのだ。 それによりクラスや入寮などの事も決めて行く訳だ。 それを鑑みれば、エリオの年齢で判定不能と言うのは確かにかなり珍しい例だと言える。 因みに俺の場合は、3歳頃には既にわかってて、兄達とは教育を分けられた。 Ωにαの受ける帝王学やそれに準ずる学問は無駄という事である。くそう…父権社会め。 「バース性が何であろうと構わないとは思っているが…。 せめて、αかβであれば、婚約を解消出来て自由になれるんだがな。」 公爵閣下はエリオを哀れむように見た。 「え、解消していただく事が出来るんですか?」 あの王太子が? と、俺は閣下に聞き返す。 「そうして下さるよう、国王陛下にお願いして念書をいただいてあるのだよ。 Ωなら…あの王太子殿下はエリオを意地でも離しはすまいから、もう諦めるしかないかと思うが…。」 本当はΩでもあの王太子にはやりたくないんだよな~、と公爵閣下は不満そうに仰る。 「そうだったんですか。」 公爵閣下、ナイス。 せめてもの活路を残すべく頑張ってくれたんだな。 ウチのパパならこうはいかない。 そっか。βか、αならエリオは彼奴から自由になれるのか。 ちみちみとパンをちぎるエリオを見る。 β…か、αか…。 もしΩになれば、今より少し線が柔らかくなり優しげになるだろう。 βなら、そう変わらないかもしれないな。しかしエリオがβってのはしっくり来ない気がする。 αなら…それはもう、2人といない美しいαになる事だろう。 背が伸びて、きっとすんなりした筋肉がついて…。 想像してみて、ふと思う。 あの王太子がバース性如きで、今でもこんだけ綺麗なエリオを諦めたりするんだろうか。 エリオは体格が良くなったって、余裕で抱けそうな美人のままだと思うぞ…。 小さくちぎったパンを小鳥のように口に運ぶエリオを眺めながら、俺は妙に不安になっていた。
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