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上には上がいる。
あれだけ強い拒否をしたにも関わらず、王太子は懲りずに毎日俺に付き纏った。
最初に愛想良くし過ぎたのが仇となったのだろうか…。
どうやら奴は、俺が機嫌を損ねているだけだと思っているようだった。
脳みそ大丈夫か。
エリオを見習って、あれだけわかり易く言ってやったっつーのに。
しかし、口も開かない俺の機嫌が当分直りそうにないと思ったのか、今度はエリオにちょっかいをかけているのを目撃。
でも、エリオにも引かれているように見えるのは気の所為…だろうか。
(…うん?)
んで、その様子を見ていて、俺はふと思った。
そういや、エリオは王太子をどう思ってんだろ?
噂①
子供の頃王太子の一目惚れで婚約話が出て、半ば強引に話を纏められてしまったらしい。
噂②
婚約してからも王太子はそりゃもうエリオにベタ惚れで、俺が留学してくる迄はどんな我儘でも聞いてやる勢いだったらしい。
噂③
でもぶっちゃけ王太子は浮気性。
噂④
その嫉妬からなのか、エリオは浮気相手に色々嫌がらせをしたらしい。(立証された訳では無い。)
噂⑤
エリオは顔は綺麗だが我儘で意地悪で性格が悪いので、せっかく得た王太子の婚約者の座も近々婚約破棄されて失うらしい。
…とまあ、あの2人に関して聞き及んでいるのはざっくり纏めてこれくらい。
後はこれらの噂が、何処迄が噂なのか 情報なのかを精査していかなくちゃなんないな。
「…我儘で、意地悪で、性格が悪い…ねえ…。」
我儘でも意地悪でも無いがエリオより万倍性格の悪い自信のある俺みたいな人間もいる訳だが。
つーか、正直なとこ言って良いか。
エリオは嫉妬で嫌がらせするタイプじゃないように思う。
つーか、そこ迄する程 あの王太子の事、好きかねえ?
ついついエリオの事を考えてしまうな。
「セス。」
学生食堂で昼食を取っていたら、名を呼ばれると同時に空いてた横の席に座られた。
「ルクス様。お久しぶりですですね。」
ルクスというこの男、侯爵家の一人息子なんだが、俺が留学してきた半年前にモーションすらかけてない内から早々に俺にハマり、1週間後には恋人に別れを切り出して、呆れた恋人にすんなり別れてもらえた迄は良かったが、俺に断られるとは露ほども考えていなかった、αのテンプレみたいな自意識過剰野郎である。
しかもあまりのセルフ暴走にドン引いた俺に苦笑されて、やはり気があるのだと騒ぎ、学園内の治安警備員達に拘束されるという醜態を晒し、2ヶ月の停学と自宅謹慎を食らっていた。
多分、俺が他国から迎えた留学生だったってのも、停学が長期化した理由だったんじゃないかな~。
ともあれ、そういう感じの 王太子を超える奇跡のバカなのだ。
しかも、しかもだ。
俺にフラれたからと停学明けに元恋人の元に戻ろうとしたら、結構人気のある元恋人が別れるのを順番待ちしていた一途系αの伯爵令息にカッ攫われて婚約された後だった…。
うける。
トップオブバカである。
下衆い趣味を持つ俺が言うのも何だが、目新しいものに目を引かれるのは人の性。だが、大切なものは失ってからわかるもの…なんだよな。
そんな訳で 痛い経験をしたバカは、それからは俺に色目を使う事も無くなり、他人の婚約者になってしまった元恋人である男を見掛けては、溜息を吐くという不毛な日々を過ごしているのである。
一時の衝動と下半身の赴くままに動くとロクな事にならないという教訓を身をもって生徒達に教えてくれたルクス。
だが、自分だけは特別、ルクスと同じ轍を踏む事は無い、と考える、更なる自意識過剰バカαは他にも結構いて、俺は娯楽に事欠かなかった。
その最たる例が現在進行形の王太子なんだよな。
もういっそ別の国に行っちゃおっかな~。と、考えた時、ふとエリオの姿が脳裏を過ぎって決心が鈍る。
最近の俺はその繰り返しだ。
「珍しいな。1人なのか。」
「はい。少し静かに過ごしたくて。」
常に周りに誰かがいるもんだから、ここ数日ひとりでいる事が多いのを珍しく思っているようだ。
「王太子殿下の申し込み、断ったそうだな。大丈夫なのか。」
「…そんなに広まっているんですか?」
「そりゃなあ。」
「王太子殿下にも困ったものです。
エリオ様という立派な婚約者の方がいらっしゃいますのに。」
俺の言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるルクス。
思い出してしまうか、自らの愚行を。
「あ、そうだ。」
ルクスなら学園の事には明るいんじゃないのか。
「少し、お伺いしても?」
さて、この男は 噂の真偽がどれ程のものか検証するのに 少しは役に立ってくれるだろうか。
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