エリオ・レニングストという男

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エリオ・レニングストという男

ルクスは言った。 彼はとにかく、入学して来た時から有名人だった…、と。 主に貴族の子弟が通うこの学園は、それ迄家庭で個人教育を受けて来た少年達が13歳から入学を許される。 通いと寮生が半々ずつ。 寮生は主に地方から学園に入学する為に首都に出てきた辺境や田舎貴族の子弟達である。 俺のような留学生もたまにいる。 俺の場合は、Ωという事もあり街中に屋敷を借りて母国から連れてきた使用人達6人ばかりと共に住んでいるが…。 社交界デビューも未だだったのに、既にその際立った美貌で有名だった美少年のエリオが入学して来た時、学園には一大センセーションが巻き起こったという。 勿論、首都住みの高位貴族であるエリオは自宅通学組。 毎朝、登校時にはエリオの顔見たさに入り待ちする野郎共が校門前から校舎迄、花道を作るかのように集まっていたらしい。 そんな男共の中には1学年上の王太子もいた訳で、ヤツは幼い頃から面識のあるエリオに、とにかく事ある毎に世話を焼くという名目で付き纏った。 幼い頃から惚れていたのは本当だが、実際 婚約に至ったのはエリオが入学してからだったという。エリオのあまりの人気に危機感を募らせた王太子が、父である国王に泣いて頼み込んで、返事を渋っていた公爵家に無理矢理うんと言わせたのだ。 アホか…。 そんな事で権力を使って婚約させる国王も、とんだ親馬鹿である。 その内、王太子の婚約者になったエリオの周りには、誰もいなくなった。 只でさえ遠巻きにされていたのに、幼い頃から顔見知りだった数少ない友人達ですら、遠のいた。 王太子が牽制したのだ。 エリオに話しかけるのは、王太子しかいなくなった。 教師ですら気を使っている様子だったというから、相当な事をして排除したのではないだろうか。 エリオが見る度にひとりぼっちだったのはそういう事か…と納得した。 普通、高位貴族の子弟には取り巻きのような連中がいたりするものだ。なのに、取り巻きどころか友人すら一緒にいるのを見た事がないのは異常だとは思っていた。 だが何故かエリオに関する事は、誰に聞いても首を傾げるばかりで、まともな情報は出てこなかったのだ。 多分、入学早々から遠ざけられて、本当にエリオの事については皆知らなかったんだろうな。 ルクスも、エリオが王太子と一緒にいるのはしょっちゅう見ていたが、エリオが声を荒げるどころか、他の生徒と話しているのすら見た事が無いと言う。 なのに、凄く高飛車で意地悪らしい、なんていう噂は一体どこが発端だったんだろうか。 周りには王太子以外の人間がいないのに、誰に意地悪や嫌がらせをしたというんだろうか、と不思議に思っていたが、その噂、きな臭いな。 王太子に近づいた生徒が嫌がらせを受けた、というのも、嫌がらせを受けた生徒が存在するのかも怪しいらしいし。 俺の中では、エリオに近づく人間を減らす為に、エリオに関する全ての悪評を王太子が流布させたのでは、という推測が出来上がりつつあるのだが。 王太子がエリオとの婚約後も数人と浮気をしていたのは本当らしいが、ルクスが知る限り、エリオはそれには関心を示さなかったらしい。 リアルタイムで見ていた人間の話と、耳に入ってきていた噂があまりにも違い過ぎる。 噂を鵜呑みにして、悋気の強い婚約者のいる王太子だから面白いかと思ってちょっかいをかけたのに、どうやら真相は全く違うようだ。 いや、でも実際の所、エリオは王太子の事をどう思っているんだろ? 婚約者にさせられて、人を遠ざけられて、本当に王太子経由かはわからないけれど、人格を貶めるような妙な噂は出回るし、しかも自分をこんな立場にした張本人である王太子は好き放題浮気しているようだし。 王太子を好きだから耐えてるとも考えられるけど、臣下という立場上、我慢していると言えなくもない。 「う~ん…やっぱ話してみたいなあ…。」 「え、俺と?」 「あ、ルクス様、ありがとうございました。ではまた。」 「つ、冷たい…。」 未だ食事中のルクスを置いて、食器はそのままに席を立つ。 これは食堂の従業員が片付ける仕事だ。 少し早いけど王太子と遭遇してしまう前に教室へ戻ろう。 あの夜、何で泣いてたのかな。 大好きな王太子に濡れ衣着せられて、浮気相手を庇われてプライド傷ついたのかと思ってたけど、違ったのかな。 本当の君を知りたい。
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