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その背中を追って
「お前はさ、ゴールを終点だと思ってるから伸びねぇんだよ。ゴールはただの通過点なんだ。俺達が目指すのは、その先にあるものだろ」
百メートルを駆け抜け、息も絶え絶えに座り込んでいる僕に手を差し伸べながら、安彦が言った。
彼の額には玉の汗が浮かんでいたけれども、息は殆ど切れていない。圧倒的一位だったにもかかわらず、まだ余力を残していたらしい。
「……僕は、安彦の背中を追いかけることで手一杯だよ」
「ほれ、そんな考えだから駄目なんだよ! 俺を追い抜く、くらいの気概でかかってこいや!」
安彦に引っ張り起こしてもらいながら愚痴るが、更なる駄目出しをもらってしまう。
これでも自己ベストを更新したのだけれども、安彦は褒めてくれない。傍から見たら厳しいの一言に見えるだろうけど、それは違うと僕だけは知っていた。
安彦は常に僕に期待し、競い合いたいだけなのだ。嬉しくもあり、重すぎる期待でもある。
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