その背中を追って

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 ――そんな幸せな日々がずっと続くと思っていた、ある日。安彦が転校することになった。  親の仕事の都合で遠くの街へ引っ越すことになったのだ。僕らが中学二年の冬のことだった。 「安彦……」 「そんな顔すんなよ! 俺だってそりゃ寂しーよ! お前ともっと走りてーよ! でも、これで終わりって訳じゃないんだ。……そうだな、次は全国大会で一緒に走ろうぜ!」 「全国……って、無理だよ! 安彦は行けるかもしれないけど、僕は……」  安彦は県大会の上位常連だ。きっと引っ越し先でも活躍することだろう。  でも、僕はいつも一歩足りない。「全国」という言葉は、僕にとってあまりにも遠すぎた。 「もちろん、次の大会でって話じゃねえよ。高校行っても陸上は続けるんだろ? なら、インターハイを狙えばいい。お前ならできる! 俺とお前でインターハイでワン・ツーフィニッシュだ! 約束だぞ!」  そんな言葉を残して、安彦は転校していった。  その後、中学三年生に進学した僕は、安彦の言葉を胸に大会へと挑んだけれども、惜敗。一方の安彦は、見事に全国大会への出場を果たし、そこそこの成績を残した。  僕は安彦との約束を守る為に、高校でも陸上を続けることを決心した。  ――けれども、僕と安彦の約束が果たされることはなかった。
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