その背中を追って

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 出足は好調、けれどもそれは他の選手も同じだ。出遅れた者はなく、横並びのままスタートする。  ここからの十秒間余りで、僕らの全てが決する。よくよく考えてみれば、あまりにもストイックすぎる競技だ。 (――くっ! 速い!)  四十メートル付近で、早くも僅かな差が開き始める。  ほんの少しのフォームの乱れが、地面を蹴る足の力強さが、致命的な差となって表れる。  実力が伯仲する中では、「後半に一気に巻き返し」等という奇跡には期待出来ない。必死に手足を振るい食らいつく。 (このままじゃ、ギリギリ届かない!)  雑念であるとは理解しつつも、順位とタイムに思いを馳せる。  このままでは上位に入れないと、焦りが首をもたげる。ゴールであるフィニッシュラインが、遥か遠くに感じられる。  ――と、その時。
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