その背中を追って

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『お前はさ、ゴールを終点だと思ってるから伸びねぇんだよ。ゴールはただの通過点なんだ。俺達が目指すのは、その先にあるものだろ』  誰かの声と共に、誰もいないはずの左側にひと際速い選手が姿を現す。  ――安彦だ。高校生の姿の安彦が、第一レーンの更に左側を風のように駆けていた。 『俺を追い抜く、くらいの気概でかかってこいや!』  聞こえるはずのない挑発の言葉を残して、安彦が加速する。  そこにあるのは理想的なフォームを持った、理想的なランナーの姿だった。僕がずっと追い求めていた安彦の姿だった。 (待ってくれ安彦!)  必死に追いすがる。その背中を追って、僕も加速する。  いつしか周囲の音は消え、他の選手もトラックすらも見えなくなり、世界が僕と安彦、そしてぐんぐんと迫るゴールだけになる。  先程まで遥か遠くにあると思っていたゴールが、やけに近く感じられる。  そうだ。ゴールは終点じゃない。僕が目指すのは、その先にある――。
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