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――変なの。実はこの家には監視カメラが仕掛けられてますってか?……ないない。こんなフッツーの一戸建てに、そんなもの仕掛けて何になるってんだかー。
気のせいだろう、と僕はあっさり片づけた。うちのコンロは優秀だ。暖かい季節ということもあって、お湯はあっさりと沸く。僕はそのまま、ヤカンを持とうとして。
まるで、誰かに操られたように――手が滑った。
「え」
たっぷり入った大量のお湯が、まるで悪魔が意図したかのようにひっくり返る。まさに、僕の頭上から。
「ぎ、ああああああっ!」
熱い、熱い、熱い!
顔を抑えてのたうちまわる僕は、キッチンのあちこちにぶつかってものを落下させた。振り回した手が何にぶつかったのか、何を倒したのかはわからなかったが、苦しんでいるうちに次第に鼻腔が焦げ臭い臭いをかぎ取るようになる。
そういえば、コンロの火を消していなかったような。
もしや、傍にあった油か、あるいはキッチンペーパーのようなものに火でもついてしまったのだろうか。
――痛い、熱い、痛い、痛いいいいいっ!
だが、火事に気を回している余裕もなかった。上半身が熱くてたまらない。苦しい、痛い。水をかけて冷やさなければと思うのに、倒れたひょうしに頭を打ったのが悪かったのか体にはまったく力が入ってくれなかった。
突然、何が起きたのだろう。
いつもとやっていることと、同じことをしようとしただけなのに。ヤカンでお湯を沸かすなんて、毎日のようにしていることのはずなのに。
まるで誰かが、僕がわざと苦しむように運命を誘導したような。
「う、あ……っ」
痛くてたまらない瞼を持ち上げ、目の前を見た僕は。自分の眼前に、真っ赤な文字が浮かんでいるのが見えた。
『復活の呪文を唱えますか?
※好きなセーブからやり直すことができます。』
ああ、ひょっとして。ゲームの中のカナコも同じだったのではないか。
自分達にとってはゲームでも、彼女にとっては現実だった。
そして今自分が現実だと思っているこの世界が、誰かにとってのゲームでないなどとどうして断言できるだろう。
――い、いやだ、ふっかつ、なんて。
気づいたところで、今更何も変わりはしない。
僕の意識は、その場でぶつんと途切れて消えたのだった。
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