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それは、今までの“現実に地に足ついたミステリー風な世界観”をぶち壊しにするほどの、死亡フラグの嵐だった。
例えば先ほどの車を避けても、マンションの玄関前の階段を慎重に登らないと転んで頭を打ち、カナコが死亡する。それを乗り越えてエレベーターホールに入っても、ちんたらと一階を探索していると階段からぶよぶよちした化け物のようなものが降りてきて食い殺される。
急いでエレベーターに乗った場合も四階に真っ直ぐ向かってはいけない、二階で一度降りないと三階から乗ってきた銃を持つ強盗にエレベーター内で撃ち殺される――などなど。ありとあらゆる死亡フラグを回避しなければ、四階のマキの部屋に到達することも叶わないという徹底ぶりなのである。死ぬたびに“復活の呪文”で蘇り、セーブ箇所からやり直せるからまだいいものの――なるほど、これはエンドユーザー向けのナイトメアモードであるのは間違いないだろう。
というか、もはや化け物も魔法も出てくるし、完全に世界観が崩壊している。かなりコアなマニア向けのモードであるのは間違いなさそうだ。
――まあ、これはこれで面白いし、いいか。
つまらない恋愛ドラマを見せられるよりよほどいい。僕は夢中でゲームをプレイし続けた。テレビ画面の中、美しい女子大生は何度も車に撥ねられ、階段から転げ落ち、ベランダから滑り落ち、銃撃されて頭を吹っ飛ばされ、バケモノにばりばりと骨や内臓を喰われて泣き叫んでいた。若干、レーティングのわりにグロテスクに感じたか、思ったのはそれだけである。
所詮はゲームで、ゲームの中の住人が死ぬだけのこと。現実の僕には関係ない。気に食わなければリセットすればいいし、飽きたら電源を切ればいいだけなのだから。
「ふあぁ、ちょっと疲れてきた……」
気づけば日はすっかり落ち、窓の向こうも暗くなっている。時計を見て、僕はもう何時間もゲームに没頭していた事実に気づいた。さすがにそろそろお風呂にでも入っておかないと、母が煩いだろう。あとは、ヤカンのお湯を沸かしておかなければいけない。非常に面倒くさいが。
――んん?
キッチンに立ったところで、僕は何かの視線を感じた気がして振り返った。何だろう、この家には僕しかいないはずなのに、さっきからずっと誰かに見られているような気がしてならない。視線はずっと、僕の真後ろからまっすぐ僕へ注がれているような。
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