02 わたしの人生、もう詰んだ……

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 ゆっくり息を吸い、それを身体の深い場所へと下ろしてゆく。深く…深く…。  ゲームのアスターは、中盤でその正体がバレて主人公エマを殺そうとする。  でも攻略対象のイケメンキャラ(の誰かが)がエマを助け、アスターは退治される。  レオン王子の場合、アスターは彼のアルカナ『炎の戦車』で焼き殺される。  ユーリック王子のルートはまだ攻略してないけど、彼の剣で斬り殺されるらしいことは知っている。  他のキャラでも似たり寄ったり。転落死だったり、竜巻で吹っ飛ばされたりしてアスターは死ぬ。 「ひどくない!?」  あまりの扱いのひどさに、また瞑想が破れた。 「バージョンが違うだけで、結局殺されるんじゃない!」  ゲームでは、ここが大きな分岐の一つだった。  ここまでで最も多く恋愛イベントを回収したイケメンキャラがエマを助けに現れ、アスターを退治する。  親友に裏切られたショックで落ち込むエマを、イケメンキャラが慰め、その恋が大きく前進するという重要イベントだ。  つまり、絶対に回避することができないイベントだ。  ラスボスであるヴィクトリアは、主人公たちが敗北すれば生き残り、学園そして王国を支配することになっている。  それに引き換え、わたしアスターが退治されるイベントは、必ず通る通過ポイント。絶対に死ぬ。いや殺されるのだ。  そういえば、隠しシナリオではヴィクトリアとエマが仲良くなって終わるエンディングもあるって何かで見たな。わたしはまだ途中までしかプレイしてないから、どんなものか知らないけど。  悪逆非道のラスボスが生き残るルートがあるのに、中ボスのわたしは絶対助からないって……。  ああ、そうだ。ヴィクトリアはラスボスだけど人気があったっけ。続編出たら再登場希望とか、SNSでよく見かけた。  それに引き換えアスターは、ひどい嫌われようだった。  序盤、親切な良い子と見せておいて裏切るし、実はコンプレックスの塊で、主人公に屈折した憎しみを抱いていたりするし。  SNSでは「クソ女」とか「アスビッチ」とカキコミされてたっけ。そしてわたしもそれに「いいね」ボタンを押していた。  まさかそのアスターに転生するなんて……。  もう泣きそうだ。でも瞑想を続けよう。  何とかしてアスター生存の手掛かりをつかまないと……。 「……ちょっと待って」  わたし、ゲームのアスターみたいにコンプレックスの塊じゃないぞ?  ゲームのアスターは、魔法の才能がない上、両親がいわゆる毒親で、それで性格が歪んだという設定だった。  でもわたしの両親は毒親ではない。娘を競走馬みたいに扱いはしてるけど。  それにゲームのアスターみたいに、わたしは両親を憎悪してはいない。 「そう言えば、パーティで見かけたレオンとユーリック。あの二人も、ゲームとは性格が違っていたな……」  ゲームのレオンは、いわゆるオレサマ王子キャラ。あんな内気で大人しい感じじゃなかった。  ユーリックはゲームでは冷たい無表情系。でもパーティで見た彼は、明るく朗らかに笑っていた。  まだ子供だからだろうか?  それとも、わたしがゲームのアスターと違っているように、彼らもまた違っているのだろうか? 「何もかもゲームと同じってわけじゃないんだ。だったら……」  調べないと。この世界のことを。  そこに、アスターが助かる道があるかもしれない。
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