02 わたしの人生、もう詰んだ……

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 翌日、早朝からわたしはリーヴ家の書斎にこもった。  リーヴ家の書斎の蔵書は、底辺貴族にしては立派なものだった。  わたしはこのトアル国のこと、特にゲームに登場するメインキャラクターたちのことを調べていった。  レオン、ユーリック、ヴィクトリア。この三人の家は、王室御三家と呼ばれ、いわゆる姻戚関係にあるのだけど、次の王をどの家から出すかでいつも争っていた。  ゲームでも、それが一つの伏線になっていたっけ。  他の攻略対象キャラも見つけた。  ──リーマン・トリリトン。  魔法使いの名家トリリトンの長男ていうか唯一の男子。メガネで魔法ヲタクなキャラ。  ゲームでは二周するくらい好きなキャラだった。  でも、この子にアスターが殺されるところは一番痛々しかった。  エマを守るため、リーマンはアスターとともに窓を突き破って転落。リーマンは助かるが、アスターは落ちた先に鉄の柵があって、その先端に貫かれて死亡。さすがに映像で見せてなかったけど、すごく痛そうな死に方だった。  ──ナルサス・ローリング。  王国屈指の海運商人で準男爵ローリング家の一人息子。  キザでチャラ男な上級生キャラ。  アスターは、彼のアルカナが生み出す竜巻で吹っ飛ばされて死ぬことになっている。  レオン、ユーリック、リーマン、ナルサス。  わたしを殺すことになる相手は、四人とも存在していることが確認された。  それはこの世界がゲーム『恋はアルカナ』の中だということの証明でもあった。  あとはメインヒロインであるエマ・ハートだ。  もしもエマを見つけることができたなら、将来、彼女を魔法学園に入学しないよう仕向ければいい。  なんといってもエマはメインヒロイン。主人公なのだから。主人公がいなければ物語ははじまらない。 「ふふふ…あの女さえなんとかすれば、わたしは助かるんだ」  ……これじゃ本当に悪玉キャラじゃないか。わたし。   ◆    ◆   ◆  三日が過ぎた。  でも、エマを見つけることはできなかった。  考えてみれば当然だ。エマは学園に入学する前は、平民の家で暮らしていたのだ。紳士録や貴族名鑑で見つけることはできない。  それにゲーム中、エマを引き取った家については、エマを召し使い同然にコキ使っていた、としか紹介されていなかった。  名前も、どこにあるのかもわからない。これでは探しようがない。  ガッカリしていると、乱暴にドアが開かれ、お父さまが入って来た。 「すぐに支度をしなさい」 「はい? 支度ってどこへ出かけるのです?」 「ナイトレイのお屋敷だ。今使いが来た。ヴィクトリアさまが、お前をお茶会にご招待してくださったのだ」 「ええっ!」  驚くわたしを、お父さまは抱きかかえるようにして書斎から連れ出した。 「わ、わたし、あの子こわいから、お近づきになりたくないんですけどぉ」  あの子と関係し続けたら、わたしは悪の組織の中ボスにされるのだ。そして善玉チームに退治される。  だから、できるだけ疎遠でいたい。  なのにお父さまときたら──  「はっはっはっ、子供だなアスターは。公爵家のお茶会に招待されて緊張しているんだね? 大丈夫さ。すぐに慣れる。いや慣れてもらわなくては困る。我がリーヴ子爵家の再興のために!」  聞いちゃいない。  頭の中は、公爵家に取り入ることでいっぱいなのだ。  わたしは抵抗虚しく外出着に着替えさせられ、迎えの馬車に押し込まれ、ナイトレイのお屋敷に向かった。
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