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一月ほどが過ぎた。
アルビオン家の悲劇も噂に上らなくなり、わたしは穏やかな日々を過ごしていた。
そんなある朝、祖父のアクセルが亡くなったとの知らせが届いた。
祖父にはあまりいい印象がない。
我がリーヴ家が底辺貴族に落ちたのも、この祖父のギャンブル好きが理由だったからだ。
賭けては負け、負けぶんを取り返そうと分の悪い勝負に賭けてまた負ける。その繰り返しで大きな負債を抱えてしまったそうだ。
父に家督を譲った祖父は、逃げるように田舎で隠居。そのせいで父は、母からネチネチと嫌味や愚痴を毎日のように聞かされていた。
幼いわたしは、それがとてもイヤだった。
父をなじる時の母の顔はとても醜悪で、見るに堪えなかった。
言い返すことなくキレるでもなく、母の静かな罵倒を聞いてる父は、とても卑屈で見ていてイライラした。
だから元凶である祖父が死んだと聞いた時には、迷惑なひとがいなくなったか、という程度にしか思わなかった。
母はもちろん、父もそうだったと思う。
そんな祖父でも、死んだからには葬儀が必要だ。
親戚一同が集まり、葬儀の打合せや準備について話し合われたのだけど──
「アルマン! わかっているだろうな?」
一族の長老格ケイン大伯父が怒鳴った。
昔から声が大きい人だったけど、耳が遠くなってからますます声が大きくなった。
その大きな声で、顔を合わせる度、父やわたしに説教するのだから、わたしはこの大伯父が大嫌いだった。
「貧しい葬儀ではダメだ! 家の格にふさわしい葬儀をするのだ!」
周りにいる他の親戚たちも「そうだそうだ」と声を上げる。
ウチの台所事情を知っているのにムチャぶりをする。子爵家にふさわしい葬式を出すお金なんかないことは、みんな知ってるだろう。
こういう時、父はへどもどヘタな言い訳をして、さらに罵倒されるのがパターンだった。
それほど好きな父ではないけれど、よってたかって罵られるのを見るのはイヤな気分だった。ところが──
「大丈夫です。問題ありません! リーヴ家にふさわしい葬儀を出します」
胸を張って宣言した父は、葬儀の会場やなんかが記された明細書を見せた。
おおーっ! と親戚一同がどよめいた。
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