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斎場はこの辺りで一番大きな教会。黒檀の棺。豪勢な花輪。葬儀の後の食事も一流店からのデリバリー……どんだけお金かかるのコレ!?
「……大丈夫なのか?」
「まさか、また領地を切り売りするつもりか?」
心配、いや批判する親戚たち。焚きつけたのはあんたらでしょうに。
しかし父は胸を張って宣言した。
「ご心配なく。実は先頃、我が娘アスターが、ナイトレイ家のヴィクトリアさまのご学友になりました。リーヴ家がナイトレイ家に引き立てられることは間違いなく、この程度の借財は問題ありません」
娘だのみかい!
「ご学友と言っても、ほんの数年でしょう? ヴィクトリアさまは魔法学園にご入学されるのですから」
そう言ったのはマウンテン男爵夫人。
この人も嫌いな親戚の一人だ。ドレスやアクセサリーで、いつもマウントとりに来るイヤミなおばさんである。
そのマウントおばさんに、母は笑みを浮かべて言った。
「ご心配なく。アスターも学園入学が内定しております」
はいーっ? 聞いてないんですけど!?
「アスターの魔力は三流以下だろう? 金を積めば入学はできようが、ヴィクトリアさまのご学友など務まるのか?」
ケインのじいさん、そういうことは本人の前で言わないで。傷つくんだから。
「大丈夫です。問題ありません!」
かわいい声が上がった。アドニスだった。
「お姉さまは魔力は低いけど知識はすごいのです! たいへんな勉強家で、ヴィクトリアさまもそこを気に入ってくれたのだと思いますっ」
小さな身体をふるわせて力説するアドニス。
説教ジジイもマウントおばさんも、黙ってしまった。
アドニス! なんていい子なの!
いつもならその細い身体を抱きしめるところだけど、この時のわたしは、呆然と立ちつくしていた。
魔法学園への入学が確定。
わたしにとって、それは死の宣告だった。
──数日後。
祖父アクセルを送る盛大な葬儀で行われた。
棺の前でこそお悔やみの声が聞かれたが、埋葬後、親戚たちの話題は、わたしがヴィクトリアのご学友となったことだった。
「アルビオン家があの有様だから、次期国王はレオンさまかヴィクトリアさまのどちらかだろう」
「ナイトレイ家のほうが優勢らしいぞ。今からヴィクトリアさまに取り入っておくんだぞ」
「機会があれば、よしなにと伝えてくれ」
誰も祖父を悼まなかった。
いかにしてヴィクトリアに取り入るか、そのおこぼれに預かるか、という話ばかりしていた。
「冗談じゃないっ!」
葬儀が終わり、自室に戻ったわたしは叫んだ。
魔法学園に入ったら最後、わたしは善玉チームに退治されるのだ。
焼死、斬殺、転落死、全身打撲…そのどれかで死ぬのだ。
「……逃げよう」
こうなったら家出するしかない。わたしは決意した。
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