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「魔力がない? 低い、ではなくて?」
「そうです。ヴィクトリアさまは魔力がない。1ポイントもないのです」
エリスの衝撃の情報に、部屋がどよめいた。
この国では、魔力の多寡が地位に直結しています。魔力が十分以上高ければ──腹に据えかねることではありますが、平民でも貴族と同等の地位と権利を持つことができます。
逆に魔力が低ければ、どれほど名家に生まれようと社会に出ることは叶わず、生涯日陰の身となります。
「ということは、ヴィクトリアさまに王位継承権は──」
「もちろん、ありません。それがこの国の法ですから」
顔を見合わせるワタクシたちに、エリスは得意満面という笑みを浮かべました。
「それをヴィクトリアさまは隠してきたのです。国をあざむき、法をあざむき、隠していたのです」
「……言われてみれば、学園内のあの館。ドアは侍女が開け閉めしてましたし、照明はラムプとロウソク。古風で贅沢な趣味だと思っていましたが」
「実習のある授業はことごとく欠席されてましたわ。入学前に修了しているからとのことでしたが……」
「そうです。すべては魔力がないことを隠すためのことだったのです」
でも、だとすると疑問が……。
「お待ちなさい。いくらナイトレイ家の力を持ってしても、魔力がまったくない者が、この学園に入学できるものなんですか? あの女のように特待生なら話は別ですが」
「お気づきにならないの?」
ワタクシの問いに、エリスが嘲るような笑みを浮かべた。
……今の顔、しっかり記憶しましてよ。でも報復は後日です。今は話を聞くのが先決ですわ。
「ネフィルの書。あの魔導書の力にきまってますわ」
なるほど! すべてが腑に落ちました。
禁断の魔導書ネフィルの書。
これを持つ者が組織の頂点に立つネフィルサークルの聖典。
「ヴィクトリアさまは、ネフィルの書を使い、自分に魔力があるように見せかけていた。そういうことなのですね?」
「そう! その通りです。──そこで提案です」
エリスは、またしても令嬢らしからぬ下品な笑みを浮かべた。
「その魔導書、私たちのものにしませんか?」
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