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わたしアスターは、トアル王国のリーヴ子爵家の娘として生を受けた。
我がリーヴ子爵家は、家柄はそれなりに由緒正しいけど、お金持ちではない。
祖父の代に莫大な負債を抱えてしまい、領地などの財産を切り売りし、かつての栄華はみるかげもない。
経済状況は父の代になっても好転せず、我が家は没落の坂道をゆるゆる下っている。
だから、両親はわたしが生まれたことをとても喜んだという。
「金持ちの家に嫁がせて、お家を再興させるんだ!」
……まあ、貴族の娘なんて政略結婚の道具だよね。
両親は、より良い嫁ぎ先に売り込めるよう、わたしを磨くことに注力した。
いい迷惑である。
ダンスやピアノのお稽古ごとに、魔力をのばすための訓練。
この国では高い魔力を持つ者、強力な魔法の技を使える者は優遇される。
王家では、魔法の才能がないものには継承権が与えられないくらいだ。逆に平民でも、高い魔法の才能があれば貴族に取り立てられることもある。
でも、わたしには魔法の才能はとぼしかった。
魔法の知識を学ぶことは楽しくて好きだったけど、魔力は低くかった。
七歳の時に受けた魔力判定では、伸びしろが少なく、どうあがいても三流止まり、という評価だった。
それを知った両親はガッカリし、こう言った。
「せめてもう少し容姿が良ければ……」
その言葉に、私は泣きたくなった。そして猛烈に腹が立った。
「魔力が低いのも、キレイじゃないのもわたしのせいじゃない。わたしだって、もっと美人に産んでほしかったわよ!」
と、怒鳴って屋敷を飛び出した。
まあ飛び出したと言っても、屋敷を出て、お抱え庭師ギヨムさんの小屋に行っただけなんだけど。
ギヨムさんの小屋はわたしの心の避難場所だった。何かイヤなことがあると、わたしはいつもここに行くのだ。
穏やかな庭師は、いつもやさしく迎えてくれて、怒ったり、泣いたりするわたしの話を聞いてくれるのだった。
「お父さまもお母さまもひどいのよっ!」
小さな小屋の小さな部屋。そこに迎え入れられてすぐ、わたしは思いをぶちまけた。
まずはさっきの言葉で、わたしがどれほど傷つけられたかを語った。そしてこれまで両親の期待を押しつけられ、ずっとガマンしていたことを訴えた。
それでも気が収まらず、酔った父のだらしなさとか、母がよその家の婦人の陰口を言っていることとか、関係のないことを話した。延々、延々話し続けた。
──数時間後。
わたしが話し疲れて黙ると、まるで見計らったかのようなタイミングで、ハーブティーが出された。
「ほんとうの美しさは、身体の内側から出るものだよ」
わたしが落ち着くのを待ってギヨムさんが言った。
その時、わたしは不思議な感覚をおぼえた。
今の言葉を、ずっと前──そう、ずっとずっと前に聞いたような気がしたのだ。
「身体が固ければ心も硬くなる。心が荒れていては、肌も髪も荒れるもの。大切なのは調和。身体と心の調和だよ」
「調和って…どうすればいいの?」
ギヨムさんは微笑み、言った。
「ヨガだよ」
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