03 異世界で失踪するのに必要な10のこと

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「あのう…どうかなさいましたか?」  おびえた声がかけられた。  わたし付の侍女のメイだった。  歳は十五歳。ちょっとあわてんぼなところがあるけど、かわいくてマジメで働きものな侍女だ。 「お求めのものは、こちらでよろしかったでしょうか?」 「ああ、ありがとう」  メイに頼んで買ってきてもらったもの。それはソロバンだった。  この世界には電卓も表計算ソフトもないからね。逃亡資金の計算に必要だろうと買いに行ってもらったのだ。  こっちにソロバンがあることは、ゲームで、魔法学園の研究室にあったのを見て覚えていた。外国から伝来したもので、港の商人たちが使っているらしい。  日本のものと形はほぼ同じ。違いは珠がカラフルなところ。オモチャみたいだ。 「せっかく買ってきてもらったけど、使わないかも……」 「はい?」 「ううん、なんでもないの」  笑って誤魔化す。  侍女に仕えている家が借金まみれだとは知られたくない。これも見栄かな。 「なんだかお顔の色が優れないみたいですが?」  心配してメイがわたしの顔をのぞき込む。 「勉強が進まなくて…いや、あなたこそ顔色よくないわよ?」  間近で見たメイの顔。血色が悪いし、目の下にクマができている。 「もしかして、ソロバン探すのに無理させちゃった?」 「いいえ、そんなことは! このところ寝付きが悪いだけで……」 「メイは、よく言えば働き者だけど、悪く言うとワーカホリックなところあるものね」 「わーかほりっく?」 「動いてないと気がすまないって感じの人」 「そうかもしれませんね。仕事全部片付けてベッドに入ったのに、何かやり残したことがあるような気がして不安になったり、疲れているのに目が冴えてしまったりで……」  ああ、そういうの前世でも覚えがある。   残業が何日も続いた時の夜って、テンションが上がったまま下がらないというか、アドレナリンが出っぱなしというか、そんな感じの時があるんだよね。  そんな時は、ヨガ教室で習ったポーズで改善したっけ。 「それじゃあ、よく眠れるようになるヨガを教えてあげるね」 「よが…ですか?」  きょとんとするメイ。 「おまじないみたいなものよ。でもすっごく効果あるんだから」  説明するのは面倒なので、とにかくやらせてみた。
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