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「お嬢さまにお手紙です」
「誰だろ…うげっ!」
それはヴィクトリアからの手紙だった。
手紙には、気品と教養にあふれた言葉で、「話があるからすぐ来い」と書かれていた。
「お嬢さま? お顔の色がすぐれませんが……」
「あははは、ちょっとねぇ。緊張しちゃってるだけよ」
「こういう時こそ、ヨガでなんとかできないのですか?」
「そうね。呼吸を整えるから、外出着の用意をしておいて」
メイはすっかりヨガの信者(?)になったようだ。
だけど、ヨガでもヴィクトリアはどうにもできない。
彼女は、破滅の運命そのものなんだから。
ナイトレイのお屋敷に来るのは三度目。来る度にその広さと豪華さに圧倒される。
長い廊下に無数のドア。壁には大きな絵画が掛けられ、小さな暖炉まである。
案内役の使用人と別にもう一人侍女が付いてきており、ドアがある度に「どうぞ」と開けてくれる。
ドアは魔法で自動で開くものなのに、わざわざ侍女を着けるなんて。こういうところがお金持ちだな。
よく見たら、廊下の暖炉もわざわざ薪を燃やすクラッシックなものだった。今時、炎の精霊ではなく薪の暖炉を使っているなんて、贅沢だなあ。さすが公爵家だ
長い廊下を進み、通された部屋は、なんとヴィクトリアの寝室だった。
中を見た途端、わたしは思わず立ちすくんでしまった。
──なんて寒々しい部屋。
公爵令嬢の部屋としてはかなり狭い。わたしの寝室と大差ないと思う。
天蓋付きの大きなベッドとサイドテーブル。書き物用の机。あるのはそれだけ。
絵とか花とか、部屋を彩るものは一切なく、寝具もカーテンも飾り気のない地味なものだ。
底辺貴族のわたしの部屋よりものがない。
ここは、ただ寝るだけの部屋だ。
カーテンの間から差し込む陽光まで色あせている気がした。
「間が悪いこと……」
広いベッドの中、気怠げに半身を起こしたヴィクトリアが言う。
顔色がよくない。体調が悪いみたいだ。
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