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シンプルな夜着とそこからのぞく白い肌。寝乱れた髪。まだ十二歳なのに、妖艶とさえ言える美しさがある。
ヴィクトリアを見る度、わたしは身がすくむ。
彼女は、わたしに破滅をもたらす死神に等しい存在。
おそろしくて、一秒でもはやく逃げ出したいと思う。でも、同時に彼女に見とれ、目が離せない。
ヴィクトリアの美しさ、カリスマがそうさせるのだろうか。
逃げ出したいのに離れられない。
それが何よりおそろしい。
「あの、今日はどういった御用でしょう…か?」
震える舌でなんとか尋ねた。
「あなたの両親、娘がわたしのご学友になったと吹聴しているそうね。わたしとの関係を途切れさせないよう、あなたも魔法学園に入れると」
「あ、あれは両親が勝手に手続きを…!」
「言い訳する必要はないわ。そう命じようとしていたところだったから」
「えっ?」
「別の学年にも手駒がほしかったのよ。好都合だわ」
薄く笑ってヴィクトリアが言う。
「わたしは、あの学園を支配する。そのためには使える手駒が必要なのよ」
「学園、ゆくゆくはこの国を支配する…というわけですね」
「よくわかったわね。あなた、見た目と違って察しが良いようね」
「いえ、そんなことは……」
ゲームをプレイしたから知ってるだけです。
──学園を支配する。そして、ゆくゆくはこの国を支配する。
それがヴィクトリアの野望だった。
ゲームで見た時は、マンガっぽいなって思った。でも、この世界で暮らしてみたら、その考えは変わった。
あの魔法学園に通うのは、王族、大貴族、高級官僚、騎士団、海運業界、魔法協会の子供たち。彼らは将来、親の後を継いで次世代のリーダーになる。
ヴィクトリアが本当に学園を支配したなら、彼女は政治、行政、治安、軍事、教育、貿易、医療など、この国の中枢すべてを支配することになる。
トアル王国はじまって以来の、強力な支配者の誕生だ。
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