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「自分でも、よくわからなかったわ。何故、あなたを手駒にしようと思ったのか」
「えっ?」
「生まれも魔力も大したことない。容姿も平凡。学力は高いけど、その程度ならいくらでもいる」
「……その通りです」
素直にそう思った。傷ついたり、ムカついたりしない。
ヴィクトリアと比べたら、わたしなんか、モブキャラ同然だから。
「でも、考えてみれば、それがあなたの長所ね」
「はい?」
「注目されない代わりに警戒もされない。実は鋭い知性の持ち主なのに、誰もあなたを脅威とは捉えない。あなたのような人材は滅多に……っ」
言葉の途中でヴィクトリアがせき込んだ。
「ヴィクトリアさま?」
あわてて彼女に駆け寄った。
そういえば、彼女は幼い頃から病弱だと言われてたっけ。人前に出たのは、この前の誕生会がはじめてだと。
ヴィクトリアの細い肩に手を触れた。プラーナの動きで体調をみようと思ったのだ。
「さわるなっ!」
鋭い声で、わたしの手ははねのけられた。
その鋭い声よりも、ヴィクトリアがはじめて見せた感情に、わたしは驚いた。
せき込むヴィクトリアを、わたしは呆然と見ていた。
やがて落ち着くと彼女は言った。
「これから学園に入る準備をするわ。あなたにも付き合ってもらうわよ。毎週、ここに通うこと。いいわね」
「は、はい」
話しはそれだけだ、とヴィクトリアは身振りで示し、わたしは寝室を出た。
ヴィクトリアから解放されてほっとしながらも、同時に、わたしは彼女のことが気になっていた。
わたしの手をはねのけたヴィクトリア。あの時、彼女が浮かべた表情。
──あれは恐怖だった。
あのヴィクトリアが恐怖を? 信じられない。
わたしの思い違いかもしれない。多分そうだろう。
ヴィクトリアは、お金も権力も魔力もすべて持っている。その彼女が、わたしの何を怖がるというのか。
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