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「とりあえず、ウェアはこんなのがあります」
「変わっているわね。でもカワイイかも」
ヨガ用に作ってもらったウェアは、ジーナさんには好評だった。
ちなみに制作費は、母の着てないドレスを「お裁縫の練習」の名目でもらい、それをたたき売って用意した。
ウェアに着替え、まずはヨガの呼吸をジーナさんに教える。
「こんな感じ?」
マットの上で、蓮花座で座るジーナさん。美人だと絵になるなぁ、と見とれてしまう。
「呼吸は、鼻で息を吸って口から吐きます。深く吸って、なるべくゆっくり、細くする感じで息を吐いてゆく」
「すぅ……はぁ……」
「そうそう、そんな感じです。ゆっくり、深く、心地良い感じで吸って…ゆっくりと吐く。
身体の深いところに呼吸を下ろすイメージで。呼吸と一緒に、プラーナ──エネルギーを下ろして…ためて……。吐く時は、ためた息とプラーナを、螺旋を描いて登せてゆくのをイメージして……」
数分ほど、呼吸法を試したあと、簡単なポーズをいくつか行った。
一通り終わった後、
「なんか…いいわね! これ」
「ほんとですか。良かったぁ」
目を輝かせるジーナさん。それを見て、わたしはほっとした。
「ジーナさんみたいな美人で健康な人に、ヨガの良さを伝えられるか不安だったんですよ」
不眠症で悩んでいたメイみたいに、悩みや痛みがある人は、それが改善すればヨガの効果を認めてくれる。
でも心や体に悩みがない人(おまけに美人)は、何かが良くなるわけではないので、効果を実感してもらえない。だから半分あきらめていた。
「何言ってるのよ。楽しいことするのに、健康とか関係ないでしょ」
「あ──」
ジーナさんの言葉で思い出した。
前世、佐倉あすかだった頃、ヨガ教室に通っていた記憶を。
キッカケは、頭痛と肩こりを治すためだった。でも、通ううちにヨガが好きになり、教室に行く毎週水曜が楽しみになっていた。
「そうですね。楽しいから、でもいいんですよね」
「楽しくて、ついでにもっと美しくなれるんだから最高じゃない!」
ジーナさんは明るく笑って言った。
この日、わたしは新しい生徒と友だちを手に入れた。
そして、ヨガ教室にとっても大きな転機となった。
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