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──ヨガ。
はじめて聞く言葉だった。
なのに、わたしはその言葉に、不思議な懐かしさを感じた。
「まずは呼吸からだな。呼吸は鼻から吸って鼻から吐く。吸い込んだ息を、ゆっくりと深く…深く、下ろしてゆく……。下ろしてゆく呼吸をイメージするんだ」
言われた通り、わたしはヨガの呼吸と瞑想をはじめた。
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。
息を吸うことで身体が満たされてゆく。息を吐くと内にあった悪いものが出てゆく。
身体がほぐれ、心がほぐれてゆく。
あんなに苦しかった胸が楽になっていた。
怒りのトゲトゲ。悔しさのイガイガ。悲しみのつかえ。そうしたイヤなものが、すっかり消え去っていた。
わたしは、生まれてはじめて心が満たされた気がした。
──いや。
はじめてじゃない…かも? この感覚はどこかで……?
そう思った時、〈それ〉が見えた。
山のように高い、四角い石の建物の群れ。
どんな市よりも大勢の人で埋め尽くされた通り。
そこに行き交う人々は、みんな奇妙な服を着ている。
ここではないどこか。今ではないいつか。
そこに、わたしはいた。
今とは違う姿で。ずっと大人の姿で。
わたしは…わたしは……!
はっとして、わたしは目を開けた。
そこはギヨムさん小屋の中。目の前には、微笑むギヨムさんの姿。
「今のは、いったい?」
「前世の記憶だよ」
「前世……!」
その言葉が、封印を解いた。
「そうだ。そうだった。わたし…わたしは……」
堰を切ったように、記憶があふれ出てくる。
「わたしは、佐倉あすか……!!」
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